イールドギャップを整理する 使い道に注意が必要です

不動産投資をしていると、イールドギャップという言葉を聞くことが多いです。
しかし、その定義には若干ブレを感じることもあるため、この際整理してみます。

そもそもイールドギャップって何?

そもそも、イールドギャップとは何でしょうか?
イールドギャップは、利回りの差を意味します。

不動産の中には、様々な投資対象があります。

地方か首都圏か、RCか木造か、新築か中古か。

このような様々な要素を比較するためには、統一した指標が必要ですよね。

このため、イールドギャップがこの投資優劣を判定するための指標として
よく使われています。

 

不動産投資を行うには、融資が不可欠です。
このため、融資と物件の利回りのバランスを考える必要が出てくるのです。

融資は返済しなければなりません。
物件から生じた収入のうち、どれだけを銀行に払わなければならないのか。

このような観点を指標化したものが、不動産投資におけるイールドギャップです。

このため、イールドギャップを見て、「融資が効いている」などという表現もされます。
あるいは、「正のレバレッジが効いている」とも表現します。

つまり、融資を受けて、物件を買ったのに、収入よりも返済のほうが多ければ、
何のために融資を受けたのかとなるわけです。
このため、借入から生まれるキャッシュフローが借入金を返済してなおプラスになるか、
どの程度プラスになるのかを見る指標になるわけです。

指標化することにより、物件Aと物件Bを比較する際に、物件Aのほうがイールドギャップが
大きいから、借入を受ける効率が良いなどの判断ができるわけです。

定義1:表面利回り-借入金金利

イールドギャップを言う場合、最も一般的な定義がこの「表面利回り-借入金金利」
であろうと思います。

「表面利回り8%で、借入金利が1%だから、イールドギャップは7%でなかなか良い
投資ではないでしょうか?」

みたいな使い方は非常によく聞きます。

このイールドギャップは感覚的に非常にわかりやすいものの、様々な要素を
切り捨てているため、正確ではないのも確かです。

どのようなポイントが考慮されていないのでしょうか?

(1)       経費率の相違

もちろん、表面利回りで計算される金額は、経費を支払う前の金額です。

このため、同じイールドギャップ7%でも、経費の状況が違うと、儲けは
異なるようになってしまいます。

例えば、都内の新築木造と、地方の大規模RCでは、表面利回りが同じでも
経費率が全く異なります。

この2つの物件を、同じイールドギャップ7%というくくりで比較することに、
何の意味もないことは明らかでしょう。

また、エレベータのある無し、3階建てか5階建てか、植栽がどの程度あるか、
部屋の広さなどによって経費率は物件により様々です。
この点も無視されてしまいます。

(2)       借入期間の相違

例えば、同じ金利1%の借入であったとしても、借入期間が20年である場合と30年である場合とでは、手取りキャッシュフローは全く異なります。

同じイールドギャップ7%でも、20年と30年ではキャシュフロー比較の対象になりません。

 

これらの点からわかることは、「表面利回り-借入金金利」で計算されるイールドギャップ
の比較が有効な場合は、ある程度限られてくるという点です。

投資家は、投資対象を限定しているケースがあります。

地方RCを買う人もいれば、築古木造ばかり買う人もいますし、新築木造を狙って買う人も
います。戸建て投資にこだわっている人もいます。

また、自分の投資対象と、属性や事業実績からして、どのような融資期間で融資を
引けるかも概ね把握できます。

取引のある金融機関も固定されてくるので、この傾向は顕著になります。

このように、投資対象の経費率と、自分が受ける融資の融資期間を概ね把握している
場合に、「表面利回り-借入金金利」のイールドギャップは比較する指標として大変便利
になるのです。

切り捨てられている要素がほとんど統一されているからこそ、この定義により収益を
概算で把握することができます。

ある程度投資対象や銀行の目処の付いている投資家が、投資対象を選択する場合にこの指標は有用なのです。

一方で、例えば地方RC物件を購入する人と、首都圏で新築木造を購入する人を、
この定義のイールドギャップで比較することには何の意味もありません。

地方の物件なら表面利回り10%で金利3%でイールドギャップ7%、一方首都圏なら、
表面利回り7%で金利2%ならイールドギャップ5%
よって地方の方が優れているというような議論は、何の意味もありません。

この場合、切り捨てられている要素、特に経費率が非常に重要なためです。

融資期間も違いますし、特に経費率が全く異なるので、イールドギャップで
投資結果の優劣を単純に比較することはできません。

ブログや投資本などで、目標イールドギャップが記載されていることもありますが、
その人にとって適正なイールドギャップが、ある人にとっては全く適正でないということも
十分にありえます。

定義2:FCR-ローン定数K%

「FCR-ローン定数K%」この定義によるイールドギャップは、定義1の
「表面利回り-借入金金利」のデメリットを是正するものです。

というか、これが正しいイールドギャップの定義です。

FCRとローン定数K%の定義をまず確認しておきましょう。

FCR=(家賃収入-運営経費)÷投資総額

物件に対する営業利益率のようなものです

ローン定数K%=元利返済額÷借入残高

これは、残債に対する年間の支払い割合ですね

例えば、1億円の物件で、表面利回り9%、経費率は概算で3割、
1%の25年フルローン融資を仮定して、イールドギャップを計算してみましょう。

FCR=1億円×9%×70%÷1億円=6.3%
K%=450万円÷1億円=4.5%
イールドギャップ=6.3-4.5=1.8%

つまり、1.8%がイールドギャップです。

例えば、経費率が20%ならどうなるでしょうか?

FCR=1億円×9%×(1-20%)÷1億円=7.2%
K%=450万円÷1億円=4.5%
イールドギャップ=7.2%-4.5%=2.7%

このように、経費率が下がればイールドギャップが上昇する事になります。

次に、融資を1%の30年フルローンに変更してみましょう。

FCR=1億円×9%×70%÷1億円=6.3%
K%=385万円÷1億円=3.8%
イールドギャップ=6.3-3.8=2.5%

融資期間が伸びても、イールドギャップが改善していることがわかるでしょう。

FRCは運営経費を考慮した数値ですので、物件の経費率の相違を織り込んでいます。

また、ローン定数K%は、元利返済額を使用しますので、融資機関の相違による
元利返済額の相違を織り込むことができます。

この結果、投資対象や融資機関の異なる間での比較が可能になります。
地方大規模RCと、都内の新築木造の優劣を比較できるようになるのです。

この厳密に計算するイールドギャップの弱点は、以下の2点でしょう。

(1)       すぐに計算できない

言わずもがな、このイールドギャップをすぐに計算できる人はいないでしょう。
私も、エクセルで収支シミュレーションを行って初めて計算できます。
業者や投資家仲間との会話の中で気軽に話せるようなものではありません。

 

(2)       キャッシュフロー上の概念なので、純資産を含めた投資成果を把握できない

上記で記載したように、イールドギャップで計算できるのは、あくまで
手残りキャッシュフローの状況です。
収入から借入金を返済した残りがどの程度かという判断が可能です。

しかし、一方で借入金の元金返済が、純資産の改善を通じて将来の売却時に
回収できるという点を完全に無視しています。

このため、例えば元金返済が進むことにより純資産が改善することによる儲けは、
全く考慮されません。

首都圏好立地で、土地値物件を購入した場合、表面利回りが低いことから、
イールドギャップは非常に小さいことが多いです。
数年でマイナスのイールドギャップに陥ることも珍しくありません。
しかしながら、イールドギャップが取れないからといって、投資として失敗
しているわけではありません。

あくまで、「手取りキャッシュフローから見て融資効率が悪い」と言えるだけです。

このような物件は、むしろ元金返済による純資産の改善という儲けを得るための
ものだからです。

例えば、地方の高利回り物件と、首都圏の低利回り物件をイールドギャップで比べる
ことにそれほど意味があるようには思いません。
前者はキャッシュフローを主体とした投資であり、後者は純資産改善を主体とした
投資だからです。

純資産改善をイールドギャップは表現してくれないので、比較する指標としては
不適切でしょう。

イールドギャップは1.5~2%は欲しい?なんで?

イールドギャップの目標を決める際も、自分がどのような投資スタイルをしているのか
意識しておくことが必要です。

前述の通り、キャッシュフロー目当ての投資と純資産改善目的の投資は、
イールドギャップで比べることはできません。

イールドギャップはあくまでキャッシュフローを融資返済の観点から切り出したものに
過ぎません。

一方、純資産改善目的の投資をする中で、物件Aと物件Bをイールドギャップで比較する
ことは有効だと思います。

このような前提を省略して、イールドギャップは2%欲しいなどと書いている投資本や
記事もありますが、そのようなことは都内好立地では不可能です。
首都圏ではイールドギャップが取れないので地方で購入するというのも、あまり有意義な
議論ではありません。

検討すべきは、自分が不動産から儲けとしてキャッシュフローを得ようとしているのか、
それとも借入返済後の純資産に着目しているのかという点です。

 

イールドギャップは大変便利な指標ですが、使う前提が重要になるのですね。

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