不動産投資では、減価償却費の重要性は皆さんご理解されていると思います。
減価償却費はデッドクロスや毎年の税引き後キャッシュフローを決める要素ですから、重要に決まっています。
この減価償却費は、建物取得金額・耐用年数・償却方法の3要素によって決まりますが、不動産投資の場合は償却方法は基本的に固定なので、建物取得金額と耐用年数が重要になります。
そのような中、一度決めた耐用年数を短くできないだろうか?というご質問を受けることがあります。
決算で耐用年数22年を採用したが、これを10年にできないだろうか?というようなことですね。
果たして、一度設定した耐用年数を短くすることはできるのでしょうか?
決算の際に決まる耐用年数
建物を購入したとして、その建物を何年で償却するのか、つまり耐用年数は、建物を取得したあとに最初に到来する決算で決定することになります。
償却期間である耐用年数は基本的に自由な選択肢が認められていません。
耐用年数は、原則として法定耐用年数を使用することになります。
木造だと22年、RC造だと47年などですね。
ただ、取得した建物が中古物件である場合は、以下の中古耐用年数の適用も可能です。
このように耐用年数を決めて行くわけですが、ここで一つ疑問が出てきます。
もっと短い償却期間を採用することはできないのか?
というところですね。
法定耐用年数や、中古資産の耐用年数よりもさらに短い償却期間を使うことはできるのでしょうか?
実は、制度的にはあるのです。
それが「耐用年数の短縮ですね」
耐用年数の短縮とは?
耐用年数はそもそも上述の通り自由に決められるものではありません。
法定耐用年数の趣旨からして、課税の公平のために建物個別要因を無視し、一律の年数をしようすることを定めたものですから、納税者側の都合で長くしたり短くしたりされると困るわけです。
ただ、とはいっても画一的に適用したのでは困る人もいる、ということで、耐用年数の短縮制度というものがあるわけですね。
耐用年数の短縮は、以下の条件を満たす場合に認められます。
- 短縮事由に該当すること
- 使用可能期間が、法定耐用年数より10%以上短いこと
- 短縮の申請を国税局に行い、認められること
ですね。
なお、①短縮事由とは、以下の8つが列挙されます。
短縮事由
- その資産の材質又は製作方法がこれと種類及び構造を同じくする他の減価償却資産の通常の材質又は製作方法と著しく異なること
- その資産の存する地盤が隆起し、又は沈下したこと
- その資産が陳腐化したこと
- その資産がその使用される場所の状況に基因して著しく腐食したこと
- その資産が通常の修理又は手入れをしなかったことに基因して著しく損耗したこと
- 減価償却資産の耐用年数等に関する省令の一部を改正する省令による改正前の耐用年数省令(以下「旧耐用年数省令」という。)を用いて償却限度額を計算することとした場合に、旧耐用年数省令に定める一の耐用年数を用いて償却限度額を計算すべきこととなる減価償却資産の構成が当該耐用年数を用いて償却限度額を計算すべきこととなる同一種類の他の減価償却資産の通常の構成と著しく異なること
- その機械及び設備が旧耐用年数省令(⑥に同じ)別表第二に特掲されていないこと
- その他①から⑦までに準ずる理由があること
短縮事由を見てみると、基本的には「物理的要因」が並んでいると思います。
資産の構成が通常と異なるとか、地盤が沈下したとか、そういった事情により、建物がダイレクトに傷んでしまい、本来使用すべき耐用年数の期間よりも短くしか使えない、ということですね。
③の陳腐化は、一種経済的事情の変化によるものですね。
例えば、新製品製造のため設備投資を行ったが、その新製品のマーケットが著しく変化し、もうその製品を作っても売れなくなってしまった、というようなケースでしょうか。
逆に言うと、この「耐用年数の短縮」という制度が用意されている以上、これに該当しない場合は短縮できないということになります。
不動産で短縮は認められるか?
不動産投資(不動産賃貸業)に関して、耐用年数の短縮を税務署と争った事例があるので、確認してみましょう。
この事例は、
・鉄骨3階建ての建物を新築した
・この建物を10年後に取り壊す契約を第三者と行った
・10年で取り壊すのだから、償却期間も10年とする
という内容の耐用年数の短縮申請が提出され、これが却下されたことから、申請者が不服申立を行い、国税不服判所が裁決を行ったものです。
10年で取り壊すのだから、10年で償却しても良いのでは?と直感的には思いますが、このケースでは申請者が負けてしまいました。
つまり、10年後に解体されることが確定しているからといって、10年で償却することは認められなかったのです。
それでは、どのような理由で申請が認められなかったのか、見てみましょう。
平成7年2月27日 国税不服審判所裁決
耐用年数の短縮は、減価償却資産の使用可能期間が法定耐用年数よりも物理的ないしは客観的に短くなるという事由が現に発生しているような場合に限つて認める趣旨にでたものと解するのが相当である。本件建物についてみると、請求人が耐用年数の短縮を求める理由としている「賃貸借期間(10年)満了に伴う本件建物の取壊し」は、本件建物自体の構造等に変化が生じて物理的、客観的に使用可能期間が短くなつたという事由ではなく、取壊しの行われることが将来予定されているという本件契約当事者双方の取決めを理由とするものにすぎないというべきところ、これを前記ハで述べた納税者が耐用年数を恣意的に決定することを排除するという所得税法の趣旨に照らしても、所得税法施行令第130条第1項第6号に掲げられている事由には該当しないことが明らかである。
請求人は、上記本件契約に定めた賃貸借期間以外に本件建物の耐用年数が短縮されるべき物理的な事由については主張せず、また、当審判所の調査によつても、本件建物の上記構造その他からみて、本件建物について所得税法施行令第130条第1項に掲げられている事由に該当するというべき耐用年数の短縮を認めなければならない特別な事由があるとも認められない。
つまり、建物につき物理的・客観的に耐用年数が短くなるというような事情が生じていない限り、認められないのだということですね。
契約で解体を定めたとしても、別に建物に物理的な事情が生じているわけではないのだから、認められないのだ、ということです。
建物に物理的な損傷などが生じたことで、税法に定める年数も使用することができないことが明らかに証明できなければならないということですね。
実務上はほとんど不可能では?
ここまで見ていただければ、耐用年数の短縮のハードルが非常に高いという点をご理解いただけるでしょう。
要するに、耐用年数の短縮は、おそらく建物が物理的なダメージを負うなどして、もう事前に設定した耐用年数も使用できない、ということが明らかな状況にならないと認められないのですね。
不動産で言うと、建物自体の使用可能期間が物理的に短いことを証明せねばならず、これはおそらく非常にハードルが高いことです。
また、この申請の提出先が税務署ではなく、国税局であることからもわかりますが、耐用年数短縮の審査は非常に厳しいです。
そもそも法定耐用年数の趣旨が、建物の個別の状態事情を無視して課税の公平のため一律に適用するということです。
短縮を軽々と認めると、この法定耐用年数の趣旨が失われるので、使用可能期間が短くなったことを客観的に証明できるものが必要でしょう。
おそらく、地震により地盤が沈下隆起し、建物の基礎や躯体に著しい損傷が生じて、長く使えなくなったようなケースでしょうか。
通常、こうなると、賃貸人への責任としてそういった損傷をそのまま放置することは無いでしょうから、地震保険により修繕などが行われることが普通ですし、修繕できない損傷を追った建物にそのまま人が住み続けることはできないのでは?と思ったりします。
こうなってくると、不動産投資において耐用年数の短縮を検討するのはちょっと難しそうですね。