ふるさと納税は相変わらず便利な節税(?)手段ですので、
多くの方がされているかと思います。
ふるさと納税関係で一番多い質問が、
「いくらまでの寄付なら負担が2千円で済むのか」
ですね。
ただ、給与だけなら良いのですが、不動産所得など所得の種類
が増えてくると意外に計算が面倒です。
特に、退職金を受け取った場合に、その退職所得がふるさと納税の
上限とどう関係するのか、わからない方が多いようです。
今回はこの点をまとめてみましょう。
結論だけ先に申し上げておくと、退職金の受け取ったからといって、
ふるさと納税の上限が増えることは基本的にありません。
ふるさと納税の上限のしくみ
ふるさと納税を限度額の範囲内ですると、2千円以外は税金が返ってくるのでお得。
というのはよく聞く内容ですね。
税金が返ってくるということですが、その返ってくる税金は、以下の3つに
分類できます。
- 所得税における、寄附金控除
- 住民税における、寄付金税額控除の本則控除
- 住民税における、寄付金税額控除の特例控除
この住民税の部分が厄介な部分ですね。
それぞれ見ていきましょう。
所得税:寄付金控除
ふるさと納税を行った場合、所得税の計算上、寄付金額-2千円が
寄付金控除の対象となります。
これは、所得税を計算する上で経費にできるという意味です。
寄付金額-2千円を経費とし、所得から控除することができます。
あくまで寄付金額は経費になるだけですから、その節税効果は、
(寄付金額-2千円)✕所得税率✕1.021(復興特別所得税率)
となりますね。
通常の経費の節税効果を計算するのと同じです。
この部分は、所得税の還付といったかたちで手元に戻ってきます。
ここで言う所得税率は、平均税率ではなく限界税率である点にだけ
注意しましょう。
住民税:寄付金税額控除(本則)
続いて出てくるのが、住民税の寄付金税額控除(本則)です。
(寄付金額-2千円)✕10%
が、住民税額から「控除」されます。
つまり、6月から納付する住民税が、寄付金がなかった場合と比べて
減少することになります。
この部分の計算も非常に簡単ですね。
ここまでの部分で、寄付金のうち、所得税率+10%の割合までは
税金が返ってくる計算です。
ただ、ここまででは寄付金の全額還付になりませんね。
住民税:寄付金税額控除(特例)
寄付金の金額が2千円を超える場合、以下の金額がさらに住民税から控除されます。
(寄付金額-2,000円)✕次に掲げる割合
※ただし、住民税所得割額の20%を上限とする
課税総所得金額(人的控除差調整額控除後) | 割合 |
195万円以下 | 84.895% |
195万円超 330万円以下 | 79.79% |
330万円超 695万円以下 | 69.58% |
695万円超 900万円以下 | 66.517% |
900万円超 1,800万円以下 | 56.307% |
1,800万円超 4,000万円以下 | 49.16% |
4,000万円超 | 44.055% |
なんだかいきなり複雑になったような気もしますが、そうでもありません。
例えば、所得が700万円の人を考えてみましょう。
(簡便化のため人的控除差調整額は考慮せず)
所得700万円なら、所得税率は23.483%(復興特別所得税含)となります。
これに、住民税控除(本則)で10%、住民税控除(特例)で66.517%です。
合計すると、100%になりますよね。
つまり、寄付金額-2千円の100%が戻ってくるというわけです。
ただ、この計算だけだと、いくら寄付しても全額戻ってきてしまいます。
ふるさと納税には上限がある、というのはどの部分なのでしょうか?
※ただし、住民税所得割額の20%を上限とするという部分なのです。
つまり、結局の所、
(寄付金額-2千円)✕所得税率✕1.021+(寄付金額-2千円)✕10%+住民税所得割額の20%
がふるさと納税の限度額、自己負担2千円で寄付できる金額ということになりますね。
これを応用すると、
ふるさと納税限度額=住民税所得割額✕20%÷(100%-所得税率✕1.021+10%)+2千円
ということもわかります。
退職金の税金の計算方法
次に、退職金の税金はどう計算し、どう収めるのか確認しましょう。
退職金を受け取った場合、次のような計算式で計算します。
もちろん、個人で受け取るお金ですから、個人で所得税と住民税が生じる
ことになりますね。
所得税の計算
退職金に対する税金は、源泉分離課税制度を採用しています。
つまり、他に給与や不動産収入があったとしても、それと切り離して、
個別に所得を計算し、個別に設定された税率を適用することになります。
つまり、不動産所得が膨大にあっても、退職金に対する税金が増えること
は無いということですね。
(退職金収入-退職所得控除)÷2✕所得税率=退職金に対する所得税
という計算になります。
退職所得控除は以下のようになっています。
勤続年数 | 退職所得控除 |
20年以下 | 40万円✕勤続年数 (80万円未満の場合は80万円) |
20年超 | 800万円+70万円✕(勤続年数-20年) |
- 上記で計算した金額を、退職金に対する経費にできるというイメージですね。
- 例えば、勤続30年の人が退職した場合、800万円+70万円✕10年=1,500万円
- 退職所得控除として退職金から差し引かれます。
- さらに、さらにその上で、この金額を2分の1にした金額が退職所得なわけです。
- 3,000万円の退職金だったとすると、(3,000万円-1,500万円)÷2=700万円
- が課税の対象となるわけですね。
- 退職金が税金計算上大変優遇されている点がご理解いただけるでしょう。
- 特に、長期勤務した方に対する優遇が厚くなっています。
- このあたりは、ちょっと世相とズレているような気もしますが、、
- ちなみに、退職所得に適用される税率は給与に適用される税率と同じです。
住民税の計算
もちろん、退職所得にも住民税がかかります。
上記の方法で計算した退職所得✕10%が退職金に対する住民税
となります。
退職所得税の納付方法
では、上記のように計算した税金は、どうやって納付するのでしょうか。
基本的には、源泉徴収されて終わりです。
退職所得に対する税金は、源泉分離課税制度が採用されています。
つまり、退職金の支給元で源泉徴収を行い、かつ、他の所得との通算
を行わない分離課税です。
結果、他にいくら所得があっても退職金の税金は増えませんし、他に
いくら赤字があっても、退職金の税金は減りません。
ただ、退職金の支給元(つまり雇用主)に退職所得の受給に関する申告書
を提出していない場合は、別途確定申告が必要になります。
とはいってもあくまで分離課税ですから、上記の計算を確定申告書上で行うだけですね。
特に税金が増えるわけでも減るわけでもありません。
退職金とふるさと納税
ふるさと納税の仕組みと、退職金の税金計算が理解できたところで、
最初の問に戻りましょう。
つまり、退職金を受け取ることは、ふるさと納税の限度を増やすの
でしょうか?
所得税への効果
上で書いたとおり、退職金に対する所得税は、源泉分離課税を採用
しています。
つまり、会社が手続きしてくれたのなら確定申告は不要です。
では、ふるさと納税のためにあえて本来は不要な確定申告をしたら
どうでしょうか?
この場合であっても、特段の節税効果はありません。
というのも、退職金はあくまで分離課税ですので、ふるさと納税による
寄付金控除があろうがなかろうが、退職金の税額は変わらないのです。
住民税への効果
退職金を受け取るときには、基本的に住民税も差引かれて振り込まれます。
ふるさと納税をすると、この住民税の還付を狙えるのでしょうか?
実は、この部分も基本的に不可能なのです。
普通、住民税は去年の所得に対する税金を、今年の6月から払うという制度です。
つまり、税金の発生が遅れるのです。(これを前年所得課税といいます)
一方、退職金の住民税は、退職金を受け取った瞬間に払ってしまいます。
というのも、退職金を支給する会社が勝手に住民税を差し引いて支給し、
その住民税を勝手に納付してしまいます。
このように、退職金に対する住民税は、通常の住民税と切り離されて、
別個に税金の納付が行われます。(これを現年分離課税といいます)
このように特別な納付を行う退職金は、そもそも住民税の寄付金税額控除の
対象外なのです。
住民税の計算上、退職金の税金計算とふるさと納税は、基本的には分離され、
個別に計算されてしまいます。
ふるさと納税の制度上のメリットの多くが、住民税の寄付金税額控除によって
もたらされているため、この適用外となる退職金は、ふるさと納税の範囲外
といっても差し支えありません。
(以下余談)
退職金に対する住民税の特別の計算方法、つまり現年分離課税の対象とならない
退職金の場合は、ふるさと納税の上限に影響します。
具体的には以下のような者から退職金を受け取った場合です。
- 常時2名以下の家事使用人のみに対し給与の支払いをする者
- 租税条約等により所得税の源泉徴収義務を負わない者
ただ、該当するのはかなりのレアケースでしょうね。
結論:退職金でふるさと納税の限度は増えない
結論としては身も蓋もありませんが、いくつかの例外はあるものの、
退職金を受け取ったからと言って、ふるさと納税の限度が増えることはありません。
つまり、退職金に係る税金は、ふるさと納税で軽減できないということ
になりますね。