令和2年度税制改正大綱が公表されました。
不動産関係で大きな目玉は何といっても次のつでしょう。
- 居住用物件の消費税還付
- 海外不動産
今回は、居住用物件の消費税還付がどうなるのか、
確認したいと思います。
いままでの消費税と還付のしくみ
そもそも、消費税とはどういう制度なのか、以下の図で見てみましょう。
われわれ消費者からすると、消費税は払うだけのものですが、会社にとっては
そうではありません。
消費者から預かった消費税から、仕入時に支払った消費税を差し引いて、
残った金額を国に納めるのです。
この場合、自社は消費者から20円の消費税を預かっていますが、仕入れ時に
10円の消費税を支払っています。
このため、国に納税するのは、受け取った20円から支払った10円を差し引いた
10円となります。
このように、預かった消費税から、支払った消費税を差し引くことを、
仕入税額控除と呼びます。
一方、通常の居住用物件を単に買っただけでは、この仕入税額控除を
受けられません。
しかし、物件の購入を行ったときの課税売上割合が95%を超えるなど
一定の要件を満たせば、居住用物件でも仕入税額控除ができていました。
このため、課税売上割合を高くするために、金の地金や自動販売機など
が今まで使われてきたというわけですね。
つまり、今まで自動販売機収入や金の地金を売買していた理由は、
すべて仕入税額控除の適用を受けるためなのです。
その部分がどのように変わるのか、12月12日に公表された
税制改正大綱を見ていきましょう。
居住用建物の仕入税額控除対象外
今回の改正で一番強烈な部分がこれですね。
①住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物であって高額特定資産に該当するもの(以下「居住用賃貸建物」という)の課税仕入については、仕入税額控除制度の適用を認めないこととする。
つまり、以下の条件を満たす建物(居住用賃貸建物)は、
そもそも仕入れ税額控除制度の対象外となります。
- 住宅の貸付の用に供しないことが明らかな建物以外の建物
- 税抜1,000万円以上の資産(特定高額資産)
イメージとしては、1,000万円以上の居住用物件です。
先に説明したとおり、仕入税額控除は消費税の還付が生じる根本です。
今までの還付スキームは、どうにかして居住用建物を仕入税額控除の適用を
受けられるようにするものでした。
しかし、今後は居住用賃貸建物はそもそも仕入税額控除の対象にならないので、
根本的に消費税還付金の計算の範囲外となります。
おそらく、今後居住用物件で消費税還付を受けることは非常に難しいでしょう。
実態的な判定基準の導入
消費税は、とても形式基準の多い法律でした。
形式基準は、あえてそれを満たす状況を作り出せば、予定外の制度の適用
を受けられるため、抜け穴として使われやすいのです。
例えば、金の売買を用いるスキームでは、金の売買を行い、課税売上割合を
95%以上にすれば、居住用レジでも100%の消費税還付を受けられました。
これは、この95%という形式基準を逆手に取り、あえて金の売買で95%以上
を満たす状態を作り出すことができていたわけです。
ところが、今回導入された居住用賃貸建物の定義は非常に実態的です。
実態に基づく判断が要求されることになるでしょう。
あくまで居住用賃貸建物に該当する場合に仕入れ税額控除の対象外になる
のですから、なんとか居住用賃貸建物に該当しないようにできないものか
と皆考えるでしょう。
しかし、これは基本的には難しいと思われます。
居住用賃貸建物の定義をもう一度確認しましょう。
「住宅の貸付の用に供しないことが明らかな建物以外の建物」
となっていますが、つまり、店舗やテナントとして使用されていることが
明らかでなければ、居住用賃貸建物に該当してしまうのです。
「明らか」というのですから、契約上どうなっているかではなく、実態として
住居に使われているのかの判定が行われるのでしょう。
こういった、実態判定の基準が導入された場合、その抜け道を探すのは非常に
難しいのです。
一部店舗があるとその部分のみ還付可
ただし、居住用賃貸建物のうち、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな部分については、引き続き仕入税額控除制度の対象とする
マンションの1階や2階が店舗やオフィスになっているマンションもありますが、
その店舗やオフィス部分の消費税還付は受けられます。
このあたり、一部店舗物件の消費税額をどう算定するかは今後通達などで
示されるでしょうが、おそらく面積割などでしょうね。
途中で店舗に使用した場合、売却した場合
まだ詳細はわからないのですが、以下のような記載もあります。
上記イにより仕入税額控除の適用を認めないこととされた居住用賃貸建物について、その仕入の日から同日の属する課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間の末日までの間に住宅の貸付意外の貸付のように供した場合又は譲渡した場合には、それまでの居住用賃貸建物の貸付及び譲渡の対価の額を基礎として計算した額を当該課税期間又は譲渡した日の属する課税期間の仕入税額控除税額に加算して調整する。
当初購入時に居住用の部屋であったとしても、運営中に店舗や事務所として
貸すことはもちろんありますから、そういった場合には、3年後にその部分の
店舗や事務所としての貸し出し実績に応じて還付するということでしょう。
また、この文章では売却についても言及されています。
居住用賃貸建物を購入してから3年以内に物件を売却した場合には、
何らかの調整が入るということでしょうが、ちょっと詳細がわかりません。
このあたりは詳細が判明したタイミングでまた解説します。
とばっちりを受けた人たち
この改正は、オーナーが金の売買などによって課税売上を作り出し
還付を受けている状況を是正するためのものです。
しかし、とばっちりを受けた人も居ます。
- 不動産の買取再販業者
- 一般事業会社の社宅購入
- 店舗賃貸もしている大家さん
ですね。
不動産の買取再販業者については、不動産を購入した際に商品の仕入という
ことで、仕入税額控除を受けています。
支払った消費税のすべてではないものの、多くは還付できているのでは
ないでしょうか。
しかし、今回の「居住用賃貸建物」には棚卸資産が含まれますから、
転売のために購入した居住用物件も対象になるでしょう。
おそらく、転売に成功したときに還付するという感じでしょうね。
本来仕入れ時に還付されたものが、転売時になるので、資金繰りに混乱
が生じないようにしないといけないでしょう。
また、通常の事業をしている事業会社や個人事業主が居住用物件を購入した場合、
金の取引をするまでもなく課税売上割合が高いですから、これも還付を受けれて
いました。
一般の事業会社が社宅を購入する場合もそうでしょう。
しかし、これも今後は還付は受けられないことになります。
また、テナントビルなどをメインで運用している大家さんも、もともと課税売上
があるので、居住用物件を買っても一定程度は還付を受けれましたが、それも
今後は難しいでしょう。
このように、今回の改正でとばっちりを受けた人も注意しましょう。
明らかに居住用の部屋の家賃は非課税
あまり言及されませんが、次のような改正も注目されます。
②住宅の貸付けに係る契約において貸付けに係る用途が明らかにされていない場合にであっても、当該貸付けの用に供する建物の状況等から人の居住の用に供することが明らかな貸付けについては、消費税を非課税とする。
これも、今回消費税法に珍しく導入された実態基準の一つですね。
従来は、居住用家賃として非課税になるのは、契約書で居住用と明示している場合に
限られていました。
消費税法第六条
国内において行われる資産の譲渡等のうち、別表第一に掲げるものには、消費税を課さない。
消費税法別表一
十三 住宅(人の居住の用に供する家屋又は家屋のうち人の居住の用に供する部分をいう。)の貸付け(当該貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされているものに限るものとし、一時的に使用させる場合その他の政令で定める場合を除く。)
このため、これを逆手に取り、サブリース契約を締結し、そのサブリース契約に居住用
と明示しない、あるいは用途は自由とするような記載をすることで、実際は住居にも
かかわらず、住居家賃を課税売上にするという還付テクニックが存在しました。
金の取引で課税売上割合を調整するのではなく、家賃をそもそも課税売上に
してしまうという方法です。
これも、非課税となる住居かどうかを契約書で判断するという形式基準の抜け穴を
つかれたものでした。
しかし、今回住居かどうかは契約書ではなく実態判定となるため、従来のように
契約書に居住用と書いていなくても、実態として居住用なら、非課税となるわけです。
居住用物件の消費税については、今までのような形式基準ではなく、徹底的に実態基準
を導入しているのです。
さきほども書きましたが、実態基準は「実際はどうなのか」が問われるため、制度の抜け穴
をつくことがとても難しいのです。
いつから適用されるか
では、このような改正はいつから適用されるのでしょうか?
(注)上記①の改正は令和2年10月1日以後に居住用賃貸建物の仕入れを行った場合について、上記②の改正は同年4月1日以後に行われる貸付けについて、(中略)それぞれ適用する。
ただし、上記①の改正は、同年3月31日までに締結した契約に基づき同年10月1日以後に居住用賃貸建物の仕入れを行った場合には、適用しない。
以上から、以下の情報を読み取れます。
- 令和2年10月以降引き渡しの物件は、還付不可
- 令和2年10月以降引き渡しであっても、令和2年3月末までに契約を締結している
場合は、還付可能 - 令和2年4月以降はサブリースを使った還付はできない
今後の消費税還付の要点
令和2年10月1日以降、住居レジを購入した場合、基本的には消費税還付は不可能しょう。
消費税還付が可能と考えられるパターンは、以下のいずれかに該当するケースです。
- 令和2年9月30日までに建物の引き渡しが完了する(所有権移転登記完了)
- 令和2年3月31日までに、売買契約書や工事請負契約書を締結している
上記のいずれにも該当せず、令和2年10月以降に引き渡しとなった住居物件の
消費税還付は難しいと思われます。
見方を変えると、上記の条件を要件のいずれかを満たす場合は、今まで通りの
還付を受けられるという話ではあります。
直近で物件を検討している方は、3月中に契約するか、9月中に決済引き渡しを行うか、
検討してみても良いでしょう。
なお、こういった契約日で税制の適用関係が変わる場合、必ず本当にその日に契約
したのかという点が問題になります。
契約日だけ後でいじったのではないかというわけです。
こういった、契約日を疑われるという事態を避けるためにも、売買契約を
行った場合には公証役場で確定日付をもらったほうが良いでしょう。
もちろん、契約日を偽ってはいけません。
消費税の違法還付は不正受還付罪という犯罪になり、刑事事件になりかねませんので、
実態と異なる状況を作り出してはいけません。
(10年以下の懲役または1千万円以下の罰金)
ちなみに、消費税法には、不正受還付未遂罪というものがあり、還付を受けなくても、
不正な内容の還付申告書が税務署に提出されただけで犯罪になります。
くれぐれもご注意ください。
これまでの消費税還付はどうなる?
ここまでは将来の話でしたが、今まで消費税還付を行った方は
どうなるのでしょうか。
いま出ている情報の範囲内ですが、特に影響は無いようです。
これも全く予想外でしたが、今回の税制改正大綱には、事前に噂されたような、
金地金の売買を規制したり、事後的に否認したりというような規定は一切
盛り込まれませんでした。
このため、既に還付を受けている方は、従来のスキームのまま取引していけば
良いでしょう。
ただ、個人的には金売買は早めに終わらせておいたほうが良いとは思います。
というのも、以下のような文言も入っているからです。
④その他所要の措置を講ずる
この通り、実際の消費税法改正案が出てくるタイミングで何かの規制が別途
入ることも否定できません。
というわけですから、早めの取引完了をおすすめします。