信用金庫開拓の以外なむずかしさ

最近、不動産投資をするにあたって、信用金庫を開拓したいという人が増えてきた印象があります。

これは、最近続いている不動産融資に対する厳格化を考えると、自身の年収といった属性だけでは限界があるので、何とか事業を見て融資してくれるような金融機関と取引がしたいということかと思います。

確かに、メガバンクは論外として、地銀も事業性融資となるとなかなかハードルが高いため、その点を含め信用金庫と取引をしてじっくりと関係構築していきたい、という方が増えているのでしょう。

その方向性自体は正しいのではないかと思います。
ただ、実際問題として信用金庫の開拓は意外と簡単にはいかないものです。

この、信用金庫開拓が簡単でない理由、そして簡単ではないが取り組んでいくべき理由を、今回解説しようと思います。

営業エリアの問題

個人的に信用金庫との取引のむずかしさは、この営業エリアの問題がかなり大きいです。

信用金庫については、法律で営業エリアが決まっています。これは、各信用金庫のHPで通常は確認できるのですが、この営業エリア外での活動を信用金庫はほとんど行いません。

これが何に影響してくるのかというと、自身の居住地(または法人の本店所在地)と、取得しようとする物件の双方がその営業エリア内に無いと、通常は取り扱ってくれないのです。

そして、信用金庫の営業エリアは狭いのですね。例えば、芝信用金庫を例にとると、営業エリアは以下のようにホームページに明記されています。

■東京都
東京23区・武蔵野市・三鷹市・調布市・狛江市・西東京市・小金井市・府中市・稲城市・多摩市・町田市・東久留米市・小平市・東村山市・国分寺市・清瀬市
■神奈川県
川崎市・横浜市・大和市・相模原市
(注)相模原市のうち、旧津久井町、旧相模湖町、旧城山町、旧藤野町を除きます。
■埼玉県
和光市・新座市・朝霞市・戸田市

とされています。

この中に法人の本店や個人の住所があり、かつ物件もこのエリア内に入っている必要があります。

つまり、いくら良い物件であったとしても、営業エリア外なのであればその時点で門前払いなのですね。

この営業エリアの問題は、融資に積極的な信用金庫であれば若干緩和することもあるのですが、基本的にはかなり厳格に運用されている印象があります。

私自身、相模原市を営業エリアとする信用金庫に、相模原市の市境からぎりぎり徒歩1分程度外れた座間市の物件を、もうほぼ相模原ですよということで持ち込んだことがあるのですが、営業エリア外を理由に断られてしまった経験があります。この点は、多少なんとかなるという感じでもないことが多いです。
(もちろん一方において、不動産融資に積極的な場合、営業エリアの問題に多少目をつぶってくれることもありますが、かなりのレアケースではあります)

さらに加えて、信用金庫の支店の営業エリアの問題も結構大きいです。

信用金庫はその地域密着金融機関の特性上、支店の営業エリアの縛りが強い印象があります。

仮に上記の信用金庫としての営業エリア内に法人があったとしても、取引ができるのは、その法人本店や個人住所を営業エリアとする支店のみです。
ですので、最寄りの支店に行ってみて、色好い返事が無ければ別の支店に電話してみる、という地銀などではある程度有効な手法も、信用金庫ではなかなか通じません。
ですので、最寄りの支店で断られたら、それでその信用金庫のとのお付き合いはいったん難しい、というような判断にならざるを得ないケースが多いです。

また、取得しようとする物件自体も、支店の近くが良いというようなことを言われることもあります。なので、この信用金庫としての営業エリアと、各支店の営業エリアという2つのエリアに大きく制約を受けることになります。

この点については、お付き合いを想定する信用金庫の支店近くに、自分の法人の支店登記をすることである程度突破できることもあるようです。
自分の法人の本店が営業エリアになくても、支店があればお付き合いができるという感じです。

ただ、昔はバーチャルオフィスやシェアオフィスで支店登記して銀行とのお付き合いをすることも可能でしたが、今はかなり難しいです。バーチャルだとまず不可能で、シェアオフィスでも結構嫌がられます。最低でも、固定電話を引いてPCを設置するなど、外形的な事務所としての建付けは必要でしょう。そうなると、結構コストもかかるのではないかと思います。

個人的な印象として、この支店による融資拡大戦略は、一義的には銀行側のスタンスが積極的でないと難しく、かつ不動産賃貸業で成功している事例はあまり見たことが無いです。宅建免許を取得して完全に事業者化した事例であれば無いことは無い。というレベル感という印象ですね。

既存物件の所在地の問題

この営業エリアの問題については、すでに保有している物件についても影響が及ぶ可能性があります。

つまり、その信用金庫の営業エリア外にある物件は、その信用金庫では担保評価を出すことができず、結果として大した担保評価が出ずに債務超過扱いになる、あるいは営業エリア外に物件が多すぎるのでそもそも担保評価を出すのが難しいからお付き合いが難しい。

みたいな感じになる可能性もあります。

とりわけ不動産投資においては、最初に使う銀行としては、オリックス銀行、静岡銀行、三井住友ローン&ファイナンス、あるいは西京銀行などの不動産業者提携ローン、セゾンファンデックス保証の融資などを使うことが多いですが、これらの金融機関はかなり融資エリアが広いです。

そういうわけで、例えば神奈川と埼玉と千葉にそれぞれ1棟づつ保有しているというような状況の場合において、例えば東京の信用金庫でお付き合いしようとすると、おそらく必ず物件のいくつかがその信用金庫の営業エリア外にあることになるでしょう。

そうなると、その物件の評価が足を引っ張る、ということは十分あり得る話ですね。

もちろん、不動産投資の初期においては、こういった融資エリアの広い金融機関を使わざるを得ないのですが、将来的には営業エリアの問題を考えていかざるを得ないでしょう。

そのようなわけで、信用金庫をメインに取引を行っている不動産投資家は、原則としてドミナント戦略、つまり購入する物件を信用金庫の営業エリアに限定するような戦略を取っています。これは、そうしたいからそうしている、ということではなく、信用金庫という営業エリアの問題が大きな金融機関と取引をしていく以上、ドミナント戦略しか取りようがないということですね。

大きな融資は結構難しい問題

メガバンクや地方銀行だと、例えばある程度属性の高い方はいきなり数億円とかも借りられたりします。逆に、大きな支店でノルマも大きいと、最低でも2億円以上の物件でないと受け付けられない、みたいなことも言われたりはします。

一方で、信用金庫で最初の取引で数億円単位の融資を受けるのは、実際かなりハードルは高いでしょう。これは不動産投資に積極的とかそういう問題でもなく、そもそも信用金庫は資金量が小さいので、大きな資金需要に対応することが体制として難しいのです。

ですので、地方銀行で数億円レベルの融資を検討できる方が、信用金庫に行っても同じように融資を受けられるか、というと実際問題としてそういうわけでもありません。

担当者の質の問題

意外な盲点が、この担当者の質の問題ですね。

メガバンクや地方銀行ではある程度担当者の質の均質性が担保されているのですが、信用金庫はそうではありません。かなりばらつきがあります。

融資額の大きい地方銀行などになると不動産への融資をしないと担当者としての目標を達成できないからか、どの担当者も「不動産なんてやってません」みたいなことを言う人は少なく、どちらかといえばやったことはあるし、やっていきたい、というような人が多い印象があります。

もちろん、その銀行の方針などによってやりたくてもできないということは多いでしょうし、相談者の属性や法人の状況に照らして審査通らないだろうなと思ったら門前払い的対応をすることもあるでしょうが、基本的には不動産融資をやりたいとは思っています。
例えば、銀行のルールとして、給与○円、資産○円以上でないと土俵にのらない、不動産融資は3億円以上でないとやらない、など内部規則がある場合、明らかにそれに達していない場合は対応しても時間の無駄ですし、行内ルールを明らかにすることもできないので、結果として「不動産やってません」という話をするかもしれませんが、それはまあそういうことです。

一方で、信用金庫はそうではありません。そもそも本当に不動産には全く(古くからの付き合いのある地主を除く)融資をしない、不動産に積極的でない信用金庫もありますし、本当に不動産の融資なんてやりません!みたいに断言してくる人もいます。
また、残念ながら、教育体制の問題なのかどうかはわかりませんが、社会人として当然期待される能力すら持っていない人もいます。
(個人的な印象だと、年配の方にその傾向が顕著です。)

なので、もう特に積極的に融資をするつもりもないし、がつがつノルマをこなしても出世の道もないから、保証協会付きの小口の融資を適当にこなして定年待ちしよう、みたいな人もいたりします。
そうなると、なかなか不動産の新規融資の相談をしても、やる気も無いし、そもそもやるスキルも無い、みたいな感じになったりします。

これに支店営業エリアの問題が組み合わさると、自身の住所近くの支店しか付き合いができない中で、その支店の担当者が外れだと、その信用金庫とのお付き合い自体が難しいということになりかねません。

こういった担当者の当たりはずれという問題は地方銀行にも当然あるのですが、信用金庫はできる人とできない人の落差がかなり激しい印象がありますので、この点も一種運試し的な要素となります。

また、良い担当者を見つけたとしても、その担当者もどこかのタイミングで異動してしまいます。そうなると、次の担当者がどうなるか、ということになります。
この担当者の異動と後任者の質の問題は、どの銀行にもあり得る話ではありますが、信用金庫は職員の質のばらつきが大きいので、この後任者の質の問題も結構大きなものになります。

それでもお付き合いしていくしか無い理由

このように、正直制約も多く使いづらい印象のある信用金庫ですが、とはいっても使っていかざるを得ないというところがあります。

というのも、地方銀行などが杓子定規に担保評価や年収基準などを見てくるなかで、やはり信用金庫はお付き合いを始めるとかなりいろいろと融通が利きます。
不動産投資を、継続的に拡大させながら進めていく上で、信用金庫との取引はある種必須のものといえるのではないでしょうか。

地縁があれば超強い

例えば、融資を受けたい人が昔からその信用金庫の営業エリアに住んでいたり、あるいは物件が営業エリアに昔からあったりすると、かなり頑張って融資を進めてくれることがあります。

子供のころにその支店で口座開設をしており、その時の手書きの口座開設書類まで稟議書に添付して本部にあげたというような話も聞いたことがあります。
このような、一種非合理的ともいえるような部分まで見てくれるのが、地域密着ということなのでしょう。
物件についても、「ああ、あの物件ね」となったり、あるいは前オーナーがその同じ信用金庫で借入して抵当権を設定していたりすると、この物件にうちが融資しなくてどこがするのだ、みたいな話になることもあります。

こういった点は、やはり信用金庫が営利組織ではなく地域の発展に資することが大切にされているということが大きいのでしょう。
このあたり、上手くはまれば、とても大きな効果を生むことがあります。

事業実績・定性面を見てくれる(可能性が高い)

地方銀行などが提供している不動産投資用の融資は、基本的に個人の属性や金融資産と切り離して審査を行う体制を取っていません。
法人でいくら実績を積んでも、融資審査の際には毎回必ず、個人の通帳の動きも含めて確認されることが多いでしょう。

これは、おそらくですが、そもそも不動産投資家を事業性によって評価することを想定していないのではないかと思います。個々の投資家がどういうスキルを持っており、どのような物件をこれまで保有してきて、どのような成果を上げたのか、というようなポイントを見るような事業会社に対する融資を不動産投資家にするのは、難しい印象があります。
もちろん、地方銀行の担当者はこう言ったポイントを見てくれますし、実績があれば担当者ベースで有利になることは確かですが、一方で審査のルールもかなり厳格です。

また、そもそも地方銀行は売り上げ数億数十億というレベル感の不動産業者が顧客にいるわけで、そのようななかで、兼業の不動産投資家が、その不動産投資家としての枠内で多少成果を上げたといっても、「だから何?」という印象になってしまうのかもしれません。
優良な融資先などいくつもあるなかで、「不動産投資家」だから融資をしているのであって、別に事業実績など期待していないし、多少事業実績があったところで別にプラスでもない。
という感じなのかもしれませんね。まあ、それは仕方がないことでしょう。

また、年収や個人資産といったものをほとんど必須とするので、いったん融資を受けたら次は難しいというケースも実際問題かなり多いです。いくら実績があってもです。

一方で、信用金庫はいったんお付き合いを初めてある程度の実績ができると、このような個人のスキルや物件購入ルート、過去の実績などをかなり評価してくれます。

そういう意味で、ある程度自身の力量を生かして積極的に不動産投資を行っていきたい、というようなニーズについては、むしろ信用金庫の方が可能性は高いでしょう。

もちろん、信用金庫といっても、融資を受けたあと何もせずに年1回決算書を提出しているだけでは別に評価はされません。
きちんとコミュニケーションを取り、自分にどういう強みがあるのか、何ができるのか、これまでどのような実績があるのか、どのようなビジョンを持っているのか、話していきましょう。
こういった話は地方銀行にはほとんど効果がありませんが、信用金庫の担当者ができる人であれば、きちんと高評価をしてくれる印象があります。

もちろん、こういった定性的な側面な評価がどれだけ融資につながったかは、稟議書や審査プロセスを見れない以上わからないのですが、個人的な体感でいうと、信用金庫においては結構大きな影響があるのではないかと感じています。

信用の蓄積による柔軟性

信用金庫は、取引が蓄積されると、結構いろいろな無理が効くこともあります。

この「無理が効く」フェーズに至るにはおそらく長い付き合いが必要になるのではないかと思われるので、融資を1本引けたら次からは何でもあり、というわけではありません。

ただ、上述の通り、取引を重ね、コミュニケーションを重ねていくと、できる担当者であれば、地方銀行では無いような融資を引ける可能性があります。

具体的には、法定耐用年数に関係する築古物件の融資期間が伸びない問題や、積算などの評価が伸びない場合など、あの手この手で何とかしようとしてくれることがあります。
実際、取引歴の長い会社は、「こんな条件で取引ができるのか」というような条件で信用金庫から融資を引いていることがあります。

また、こういった長期的な取引関係を前提としている、という点も頼もしいところです。

地方銀行などで不動産投資家として融資を引く場合、最初から「不動産投資家」のカテゴリーに入ってしまい、そもそも投資家としてしか見てもらえないという状態が続くことが多いです。

一方で、信用金庫は最初から事業者であり、その点で長期的な取引関係が前提となっている点も頼もしいポイントだと思います。
また、ある程度担当者とコミュニケーションが取れ、物件の評価のイメージがつくようになると、審査もかなり早いことが

このように、信用金庫は取引が深まるとかなり使いやすくなります。
ある程度大きな規模になっている投資家さんにも、特定の信用金庫と集中的に取引をしている方は少なくありません。もちろんリスクヘッジは必要ですが、取引銀行を広げても取引を深めないとなかなか次にはつながらないので、あえて調子のよい特定の信用金庫との取引を狙って深め、次につなげ、それによってまた取引が深まり、という良いループを回しているのですね。

少額融資への対応

例えば、大規模修繕の際に400万円ほど必要だが、融資で調達できないだろうか、ということがあったとします。
こういった小口融資は、基本的に地方銀行などでは難しいです。もちろんやらないこともありませんが、通常、不動産に積極的な支店や担当者は大きなノルマを負っていることが多く、そうなると数百万円レベルの小口融資に対応している時間的余裕がありません。

一方で、信用金庫はそうでもないので、例えば保証協会付きなどで融資対応してくれる可能性は十分あるでしょう。

もちろん、修繕資金は物件の収益から賄うべきであって、本来融資を使うものではなく、融資する場合でもそれは物件本体取得資金を融資した銀行が行うべきだ、という考え方があり、銀行は修繕資金のみの融資にそれほど積極的ではありません。

もちろん、こういった修繕資金対応は日本政策金融公庫を使うのが最も手っ取り早いですが。

また、戸建てや区分マンションといった、ロットの小さな物件も信用金庫向きです。こういった物件は地方銀行は嫌がるケースがあります。というのも、小さな物件も大きな物件も融資を出すまでの手間はさして変わらないわけですから、大きな物件の融資を進めたほうが効率的ですよね。(条件にはまれば簡単に融資を出せる保証付き融資は別ですが)

一方で、信用金庫はそもそも大きな融資は難しい一方、小さな融資にも積極的に取り組んでもらえます。融資規模で今までダメと言われた経験は、個人的にはありません。
ですので、小ロットの物件を狙う場合にも、信用金庫は良い選択肢になるでしょう。

 

このように、信用金庫にはむずかしさはあるものの、やはりそれなりに大きなメリットがあります。
特性を理解し、積極的に対応していきましょう。

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