売主が個人である場合、通常は売買契約書に土地と建物の金額が個別に記載されることはありません。
このように売買契約書に金額の記載がない場合、競合方法で売買金額を土地と建物に分割しなければなりません
。
- 不動産鑑定評価書による按分
- 路線価・公示価格により土地
を計算し、差額を建物とする方法反対に、建物価格を計算し、差額を土地とする方法 - 固定資産税評価額による按分
それぞれ検討させていただきます。
シリーズ:土地建物割合を考える
第1回:不動産の土地建物の金額を考えていますか?
第2回:はじめに売買契約書ありき~土地建物の金額の決め方①
第3回:売買契約書が税務署~土地建物の金額の決め方②
第4回:売買契約書に土地建物をまとめて記載した場合~土地建物の金額の決定方法③
第5回:土地建物比率で不動産鑑定評価が認められるられた事例
不動産鑑定評価書による按分
不動産鑑定士に鑑定評価をお願いし、土地建物の金額を算出し、その金額とともに按分する方法です。
第三者でありかつ不動産価格の計算を職とする不動産鑑定士の評価は、高い信頼性を持つと
考えられます。
の仕事を請け負った鑑定士だとなお良いですね。
しかし、実は鑑定評価が認められなかった事例はあります。
これは、当初申告時に近隣取引事例などにより土地建物価格を算出し、それが認められたかどうか国税と争う際に鑑定評価額を提示して争ったものです。
どのような内容か、見てみましょう。
H27.6.1国税不服申立所裁決、H27.6.11大阪地裁棄却棄却確定
確かに、鑑定評価による価額を用いたあん分法も土地と建物等の取得価額を区分する方法として、一応の合理性が認められる方法である。しかしながら、本件K評価書における評価額は、次のとおり、必ずしも合理性のある算出価額とはなっていないものと認められる。…(以下合理的でない理由が続く)
原告は、社団法人Mの会員が作成した不動産鑑定評価書(以下「本件鑑定書」という。)をその主張の根拠とするところ、本件鑑定書は、①積算価格(再建築調達費)と収益価格の差額を理由なく全て建物に加算していることや、…中略…、本件土地については何ら問題が見当たらないことに照らせば、なぜ増加分全てが建物に帰属することが妥当であるかについて何ら理由が示されていないなど、不合理である。
このように、不動産鑑定評価額による按分それ自体は一定の合理性を有すると認めたうえで、鑑定評価の内容に関し瑕疵を指摘して否定いるわけです。
したがって、鑑定評価による按分を否認する場合、鑑定評価書の瑕疵を指摘せねばならず、否認のハードルは上がると考えられます。
このため、固定資産税評価額按分額から著しく乖離しない限り問題ないでしょう。
鑑定評価には結構お金がかかる(数十万円)のですが、依頼する価値はある場合は多いと思います。
ただ、不動産鑑定評価額により按分しても、結果的には固定資産税評価額按分と近似することはしばしばあることです。
事前にどの程度の按分になりそうか概算してもらい、鑑定評価を依頼する価値があるか判断しましょう。
また、この判例もそうですが、不動産鑑定評価が否認される事例も実は多いです。税務署内には不動産鑑定評価書の内容の妥当性をチェックする体制が整えられています。
このため、不動産鑑定評価書が著しく不合理な場合、否認される可能性は十分にあるので、この点は注意しましょう。
路線価等により土地価格を算出し差額を建物とする方法、または、建物価格を算出し、差額を土地とする方法
土地か建物いづれかの金額(再調達価格)を算出し、その金額を売買金額からマイナスして残りの金額を出すことになります。
例えば、売買価格が1億円、土地が300㎡、路線価150千円/㎡とすると、
土地:300✕150千円÷0.8=56,250,000円
建物:100,000,000-56,250,000=43,750,000円
このように決めていくわけです。
この他に、固定資産税評価額から土地の実勢価格を算出する方法もあります。
路線価や固定資産税評価額は、土地の実勢価格をもとに算出されているという建前ですので、このような方法も一定の合理性が認められるのです。
この他に、建物価格を先に算出することもありえます。
売買価格が1億円、築25年、建物が600㎡、建物の再調達単価200千円/㎡とすると、
建物:200,000×600×25÷47=63,830,000円
土地:100,000,000-63,830,000=36,170,000円
となるわけです。
このような方法を、差引法といいます。
しかし、差引法は、合意性の程度でいうといささか低くなってしまいます。
このため、差引法が否認された事例は多くあります。
平成12年12月28日裁決
その基礎とする土地の価額を当該物件の全体の取得価額から控除して当該建物の取得価額を算出するか、その基礎とする建物の価額をそのまま当該建物の取得価額とする方法(以下「差引法」という。)のいずれの方法によることが合理的かを検討する必要がある。
そこで、本件物件について検討すると、マンションは土地及び建物が不可分一体となっており、差引法では、通常の販売価額よりも高額又は低額で販売された場合、一方の価額が実態から著しくかけ離れた価額となる場合がある。
例えば、路線価から算出する方法の場合、土地を路線価を基礎とした積算価格を土地価格とすることになります。
普通、収益物件は積算価格とイコールではない(積算を超える)場合が多いので、積算と売買価格との差額がすべて、売買価格-土地価格で計算される建物にすべてしわ寄せされてしまうのですね。
つまり、土地建物全体の付加価値であった部分が、全て建物に上乗せされるので、必然的に建物の金額が大きくなってしまうというわけでっす。
このため、固定資産税評価額で按分した結果との乖離が大きくなる場合は、固定資産税評価額で按分したほうが安全といえます。
次に記載しますが、固定資産税評価額が結局のところ非常に重要な基準になってくるためです。
固定資産税評価額による按分
税務上は、非常に良く見かける方法です。
地方自治体が算出した固定資産税評価額を基準に按分する方法です。売買契約書に土地建物金額の記載がなく、国税と争った場合、よほどの
特殊事情がない限りこの按分方法に流れつきます。
なぜこの方法が課税上多用されるのでしょうか?
それは、別にこの方法が最も正しいからではなく、あくまで課税する上で大変便利であるからにすぎません。(つまり、最も手軽に合理性を確保できる)
判例で確認してみましょう。
H13.12.14福岡地裁棄却確定、H27.6.1国税不服審判所裁決
固定資産税評価額又は相続税評価額を基礎とする方法は、特に中古物件の場合簡易、迅速に土地及び建物の価額を把握し按分することができること、固定資産税評価額は、土地にあっては路線価と同様に地価公示価額や売買実例等を基に評価し、建物にあっては再建築価額に基づいて評価しているから、土地及び建物双方とも時価を反映し得るものと考えられることなどの利点を有するだけでなく、土地及び建物の双方とも同一時期の時価を反映していると考えられるなどの点において一層の利点があり、土地及び建物の適切な価額比の算出方法としてより合理的といえる。
この通り、大量反復強行を旨とする計算側の理論がまかり通っているのですね。
売買契約書に土地家屋の記載がなくなり、他に良い方法がない場合、この方法を取り逃がしません。
ただ、あくまでも最後の手段として捉えるべきです。
固定資産税評価額で按分する場合、建物が小さくなりがちです。
都内の築25年程度の中古RCですと、建物割合が20%程度になることも珍しくありません。
このような状況ですと、頭金を入れることなくデットクロスを回避することはほぼ不可能です。
検討の結果この方法を選択するのはいいでしょう。