土地から新築を手掛ける投資家の方を最近はよく見かけます。
中古や建売の物件が高騰しているため、新築を自分で建てる方が利回りの高い物件に仕上がる。
という判断が背景にあるようですね。
確かに、土地から新築はうまくいけば儲かる可能性が高いと私も思います。
ただ、ここには見逃されがちなリスクが存在しています。
それは、建築会社の倒産です。
建築会社の倒産は、テールリスクではあるのですが、発生すると激甚な影響をもたらすことになります。
建築会社が倒産は事前に把握できない
最近、建築会社の倒産や夜逃げのような話を聞くことがとても増えてきました。
不動産投資家向けに大きな取引を行っていた、ユービーエムがいきなり倒産したことは記憶に新しいです。
建築会社が、とりわけ建築途中で倒産すると、実際非常に重大な影響があります。
ですので、建築会社の倒産の恐れが無いか、事前にしっかり確認する必要があります。
ですが、事前の確認には正直限界があります。
まずは、帝国データバンクでの与信調査が考えられますね。
直近の決算書の内容や、それに基づく帝国データバンクの分析を見ることができます。
もちろん参考にはなるのですが、一方で限界も多いです。
もちろん、明らかにまずい会社はその時点で除外はできるでしょう。
ただ、一般的に建築会社は中小零細企業であることが多いですが、そういった会社がどれだけ適切に決算書を作っているかという問題があります。
粉飾決算の可能性を排除できません。
また、いくら与信調査の結果が良くても、建築業界ではあまりあてにならない、というのも正直なところです。
というのも、建築会社は本当に急に倒産するからです。
ユービーエムも、帝国データバンクの評点は良かったのですが、いきなり倒産しました。
建築会社は一般に資金繰りに苦労しています。
それは、建築業界が基本的に下請けであり、薄利多売によって収益を確保しているという構造があるからです。
そのため、例えばとある工事の引き渡しにより資金を得たら、すぐにそれを別の工事の材料代支払いに充てる。
というような自転車操業をしています。
このような状況で、例えばある工事現場でトラブルが発生し、引き渡しを施主に拒否された。当然完成時の最終金支払いも行われない。
というような事態が生じたらどうなるでしょうか。
そう、あっという間に資金繰りが行き詰ってしまします。
その会社全体で資金繰りに行き詰まるので、ほかの工事が進まなくなります。
このように、今まで順調であった会社も、何か一つ大きな工事でトラブルを起こしてしまうと、一気に経営が傾きます。
大きなゼネコンクラスでもこういうことが発生することがあるので、中小零細規模の建築会社ならなおさらです。
こういった状況が発生し得るかどうかは、建築業界の外にいる人間が、事前に把握することはほぼ不可能でしょう。
ですから、帝国データバンクといった信用調査で重要なことは、過去の情報というより、債務遅延の状況など現在の情報ですね。
使用調査会社には様々な情報が集まるので、その情報をとるというのは役に立ちます。
ただ、帝国データバンクに債務遅延情報が出て来ると、結構ヤバい状況です。
債務遅延情報は相手方が帝国データにタレこむわけですが、このようなタレこみはよほどトラブルにならないと行われません。
ですから、新築をするには、帝国データに債務遅延情報が登録される前に情報を掴んでおきたいですね。
下請会社の倒産
また、自身が工事請負契約を締結している建築会社の下請けが倒産するということも考えられます。
建築業界は多重下請構造ですので、建築会社と契約したら、その建築会社が2社下請会社にいくつかの工事を依頼し、その下請会社がさらにそれぞれ4社の孫請会社に依頼し、孫請会社が職人を手配する。
というように非常に複雑に入り組んだ形になります。
このような場合、例えば、建築会社は下請会社にお金を払ったが、下請会社が工事をしないまま夜逃げしてしまう。というようなことも実際にあります。
施主としては建築会社と契約しているわけで、下請孫請の問題は建築会社が管理すべきことですが、現実問題として工事は止まってしまいますし、それを起因として元請の建築会社の資金繰りが連鎖的にショートする可能性もあります。
工事・行程毎にどのような下請・孫請がいるのかは施主としては把握できませんし、聞いても教えてくれないでしょうし、聞いてダメだとなった時にそういった注文をつけること自体不可能でしょう。
そういう意味で、建築工事から倒産リスクを排除することは不可能なのです。
何とか倒産・夜逃げを事前に把握できないか
新築をする際には、
「新築現場を一定の頻度で訪問し、職人さんたちと話をしよう」
というようなアドバイスがされることもありますね。
これは、実際は建築会社の資金繰り状況を推し量る重要な手段です。
というのも、建築会社の資金繰りが厳しくなってくると、現場で働く職人への支払いが遅れたり、滞ったりしてきます。
また、現場の職人さんたちも、お金をもらえないと食べていけないですから、どの会社が危ないといったような情報を共有していることも多いです。
そういった状況を、現場で職人さんたちからさりげなくヒアリングしておく、ということが重要になるわけですね。
もちろん、ダイレクトに聞くわけにはいかないのですし、下手なことをすると建築会社に警戒されかねないので、コミュニケーション力が重要にはなりますけどね。
また、現場の職人さんにお金が支払われていないとしても、どこで資金の目詰まりが起こっているのかは外部からはわかりません。
結局、建築会社にシラを切られてしまうとどうしようもないというのも正直なところです。
あとは、建築業界に知り合いの多い知人を作っておく、というのも有効でしょう。建築業界の中では、警戒を要する業者や、どの業者が支払いを行えていない、とうような情報は共有されていることもよくあります。
とはいっても、最初からこのような建築業界のインナーサークルに入るのは容易ではないでしょう。
これらの手法をとっても、正直リスクを完全に排除できません。
また、建築途中に建築会社の経営リスクが露呈しても、建築会社が身を引くとは限りません。
工事請負契約の解除をめぐって数年間に及ぶ裁判をしている方も実際にいます。
このように、建築会社の倒産や夜逃げは事前に予期することがなかなか難しく、かつリスクを排除することもできません。
倒産や夜逃げが起こった際に、どのような問題が生じうるのか、次回以降の記事で解説していきます。