最近は海外で不動産を購入する人を見かけることがあります。
アメリカが多く、ハワイやカリフォルニアをよく聞きますね。
最近ですとテキサスでの不動産投資がテレビで取り上げられるなど、
注目が高まっているようです。
ただ、純投資目的の方はかなり少なく、節税目的で購入しているパターンが
大半のようです。
確かに海外不動産は税制の歪みをついた非常に有効な節税手段
であることは確かなのですが、一方で大きなリスクがある
のではないかと個人的に考えています。
その点を理解した上で取り組むようにしましょう。
なぜ海外不動産で節税になるのか
海外不動産は、現状ほぼ節税を目的として行われています。
では、なぜ節税になるのでしょうか?
海外不動産に適用される税制=日本の税制
日本に住んでいる人が、海外に収益不動産を保有している場合、その利益には
どのように課税されるのでしょうか?
基本的には、海外と日本の税金が両方課されることになります。
つまり、海外の不動産ですので、まずはアメリカなどその物件の所在地に税金を支払います。
その後、日本で確定申告をするわけですが、このままではアメリカと日本の税金が2重
になってしまうので、日本での確定申告の際に、アメリカで支払った税金を日本の税金
から差し引いて良いことになっています。(外国税額控除といいます)
何が言いたいのかというと、海外でいくら納税していようが、最終的には日本の
税制で計算した税金の金額になるということです。
結局の所、日本に住んでいる人には、最終的に日本の税制が適用されるのです。
基本的には不動産所得となりますので、日本にあるアパートと全く同じ税制が適用されます。
海外不動産は、この日本の税制と、海外不動産の実態の大きなズレをついたものです。
信じがたい税法と実態のアンバランス
日本では、法定耐用年数は以下のように定められています。
木造 :22年
軽量鉄骨:27年
重量鉄骨:34年
鉄筋コン:47年
さらに、上記の法定耐用年数を超過した物件は、耐用年数×0.2の期間で償却できます。
例えば、築25年の木造アパートは、22年×0.2=4年で償却できるというわけです。
これは、あくまで日本の建物を前提としています。
たしかに、木造の物件は22年もたてば結構古くなりますし、RCも40年経てば古さを隠すことはできにくいものです。
このため、日本の不動産については、時間の経過により価値が減価することは確かです。
日本の税制は、このような前提に立っているので、基本的には日本の建物に合わせて
減価償却期間が設定されています。
また、法定耐用年数を超過した木造アパートを、4年で償却するのも日本の建物の
減価が早いからという前提に立ったものです。
この部分は概ね皆さん同意されるのではないでしょうか?
一方、海外ではこの前提が当てはまりません。
建物が古いからと言って価値が下がらないどころか、価値がむしろ上がったりします。
海外は基本的にインフレですのでモノの価値が上がっています。
また、新築住居の供給が制限されていたり、気候的に建物の劣化が低い、
建物の修繕が適切に行われている、等々様々な要因があるようですが、
価値が経年とともに価値が上昇することは決して珍しくありません。
物件のインスペクションが極めて高水準で強制的に行われて、さらに過去の修繕
記録といった情報がネットで公開されています。
このため、どのような建物が建つかわからない新築よりも、中古物件の方が質が
保証されているという考え方もあるようです。
(インスペクションの無い物件は強制的に取り壊されることもあるとか)
これは何を意味するか。建物の価値が築古であっても高いということです。
土地の価値が低いにもかかわらず、不動産価格は高いのです。
言い換えると、土地建物のうち建物割合が高いにもかかわらず、資産価値が高いのです。
日本とは真逆の環境ですね。日本では土地=資産価値ですが、海外では建物=資産価値
というわけです。
これは、減価償却を取る上で理想的な環境です。
建物割合の高い物件を入手し、これを建物の価値が下落しないにもかかわらず4年程度で
償却し、6年後程度を目処に売却する。
売却時も「建物が古い」ということが価値の減価要因ではないので、出口も取りやすい。
日本で償却を取るために苦労するポイントがほとんどクリアできるというわけですね。
会計検査院の警告
正直、節税のみ考えるとこれほど優れた方法もありません。
実際、高額所得者が海外の不動産投資で大きな会計上の赤字を計上し、
節税をしている例は多いです。
いや、多すぎたというべきでしょうか。
会計検査院がこの節税方法に目をつけ、平成28年11月に以下のようなレポートを
出しています。(平成27年度会計検査院決算検査報告)
本院は、証拠書類として提出を受けている所得税の確定申告書等の中に、国外に所在する建物を取得して不動産事業の用に供し、多額の減価償却費を計上して、不動産所得に損失が生じている納税者が見受けられたことから、国外に所在する建物に係る減価償却費の算定方法は建物の現状に適合しているかなどに着眼して検査した。
(中略)
国外に所在する中古等建物について、賃貸料収入を上回る減価償却費を計上している納税者が多く見受けられる状況となっていた。また、簡便法により耐用年数を算定する場合に用いられる100分の20という割合は、昭和26年に定められて以降現在に至るまで変わっていない。これらのことを踏まえると、国外に所在する中古等建物については、簡便法により算定された耐用年数が建物の実際の使用期間に適合していないおそれがあると認められる。そして、賃貸料収入を上回る減価償却費を計上することにより、不動産所得の金額が減少して損失が生ずることになり、損益通算を行って所得税額が減少することになる。
したがって、本院の検査によって明らかになった状況を踏まえて、今後、財務省において、国外に所在する中古の建物に係る減価償却費の在り方について、様々な視点から有効性及び公平性を高めるよう検討を行っていくことが肝要である。
このように、現状、海外不動産を保有して節税が行われている。
そしてその節税が日本の税制の不備によって可能になっているということ。
これらのことは国も既に気がついているということです。
ごもっともな指摘といえますが、注意すべきは、会計検査院から指摘が入った場合、
近々に税制改正につながる可能性が大きいということです。
最近では、SPCを利用した建物建設時の消費税還付・節税スキームが会計検査院の
指摘をきっかけに封じられたのが記憶に新しいですね。
このとばっちりを受けて、多くの大家さんが消費税還付できなくなりました。
当時は泣いた大家さんも多いのではないでしょうか?
今回も、税制改正により海外不動産のオーナーが泣くことになるのではないか
と心配しています。
将来の税制改正で海外不動産が売れなくなるリスク
会計検査院が指摘した項目については、税制改正により塞がれることが多いです。
また、この件は日本の税制の不備をついたものですので、税制改正がされて当然
とも言えるでしょう。
このため、将来的には、海外に有する不動産で生じた赤字を、日本の所得と相殺
できないようにするであったり、海外不動産の法定耐用年数を長くする等の措置が
取られると思います。
そうなるとどうなるか。海外不動産の旨味がなくなることになります。
税制改正により節税に使えなくなった海外不動産を、今と同じように富裕層は
購入するでしょうか?
もちろん、ドル資産を保有する、インフレ基調の海外に現物資産を保有するといった、
資産形成目的で購入する人はいるでしょうが、現状ほどの旨味はなくなるでしょう。
結果、日本人向けの海外不動産の流通は縮小せざるを得ません。
ご存知の通り、節税用の物件というのは、減価償却が大きければ大きいほど、
それが終わったあとのデットクロスも苛烈なものになります。
では、その物件を手放せないとなると、恐ろしい納税額になってくるでしょう。
節税目的の物件は、減価償却後の出口が非常に重要です。
減価償却が終わった後に売ることが必要なのです。
この出口が税制改正により塞がれてしまう(つまり、次買う人は減価償却の旨味がない)
事態が概ね見えてきているなかで、あえて海外不動産で節税するのは、いささかリスキー
に感じます。
かぼちゃの馬車の再来になりはしないか
海外不動産投資については、大問題となっているかぼちゃの馬車と多くの類似性
が感じられます。
運営業者お任せの運用状況
海外不動産は自分で運営することが基本的にできません。
もちろん、古くからの海外不動産投資家は、自分でアメリカの管理会社
とやり取りをして、自分で運営しています。
しかし、近年の節税ブームで投資している人たちは、全てを日本の窓口会社に
おまかせしているようです。
この場合、この窓口業者が破綻した場合、投資家は何もできないという
状況に陥るでしょう。
窓口会社の信用リスクが極めて大きいということです。
場所が海外なだけに、シェアハウスよりも自力運用は困難でしょう。
物件価値、家賃水準の検証が困難
かぼちゃの馬車は、資産価値の低い物件を、ありえない家賃査定をする
ことで無理やり高く売っていました。
これを避けるためには、土地の価格の検証、建物建設価格の検証、設定
された家賃水準の検証を行っていればよかったのでうす。
一方、海外で不動産を購入されている方は、そのような検証を行っている
のでしょうか?
というか、海外の不動産の適正価格や適正家賃をどのように検証する
のでしょうか?
窓口業者と連鎖倒産しないようにしないと・・・
もちろん、現地の実需や投資家に向けて売却可能である場合や、
そもそも節税など一切関係なく純粋に収益目的で行っている場合は良いでしょう。
しかし、現状、海外不動産に手を出している人は、概ね節税に心惹かれて購入していますし、
物件の紹介から融資付け、管理に至るまで業者に丸投げの人が多いと感じています。
このような場合、運営を代行する業者が倒産した場合、日本に残された投資家は
ほとんど為す術が無くなってしまうものと考えられます。
さて、税制改正により日本人に売る旨味が失われ、業者が次々と撤退したあとに、
一体何が残されるのでしょうか?
管理は自分でできるのか?現地で実需に売却する手段はあるのか?
そもそも相場に比して高値掴みをしてしまっているのではないか?
かぼちゃの馬車のように、何もわからない投資家が一人残されはしないのでしょうか?
海外不動産に手を出す際には、この点を慎重に検討しなければならないと考えています。