不動産投資をするにあたって、法人を設立しようと思うが、資本金をいくらにしたら良いのか?
この点も、多くの方がお悩みのようですね。
実際、いろいろな選択肢があります。
資本金1万円の法人も、資本金990万円の法人も、私のお客様にはいらっしゃいます。
資本金については、いくつか留意点があります。
おおむね、以下の3点でしょうか。
- 銀行融資の観点
- 税金の観点
- 手元資金の観点
一つずつ見ていきましょう。
銀行融資の観点
銀行融資の観点とは、つまり資本金が大きいほうが、法人としての評価が高いのでは?
ということですね。
これは、率直に言ってしまうと銀行によってまちまちです。
例えば、アパートローンを専ら行う銀行のように、法人への融資でも実質的に個人への融資と同じように見ている銀行があります。
このような場合、法人単体の状況は全く重要でなく、個人の属性などが最重視されます。
このような場合、資本金は正直さして重要な要素ではありません。
実際に、私のお客様でも、資本金10万円や、資本金1万円の会社を設立された方もいらっしゃいます。
これは、法人で融資を受けるとはいえ、あくまでアパートローンですから、直法人の状況はどうでも良いからですね。
では、あらゆるケースで資本金の額はどうでも良いのか、というと、そういうわけではありません。
アパートローンを行う銀行などで資本金が少なくても大丈夫なのは、あくまで定型アパートローンの審査項目に資本金が無いからに過ぎません。
こういった定形のアパートローンは法人自体を重視しませんから、資本もさして重視されません。
たしかに、こういったアパートローンを使う場合、資本金は重要な要素ではありません。
しかし、このアパートローンの審査は、実は結構特殊な審査基準です。
通常の融資の審査は、法人はどうでもよい、という極端な割り切りをしません。
このため、通常の金融機関における審査では、あまりに少ない、1万円や10万円の資本金額は、歓迎されません。
歓迎されないと言うか、「この人本気で事業する気があるのだろうか?」と思われてしまうこともあります。
資本金は会社が事業を行う「元手」なわけですから、あまりに少ないと、自分で事業資金を出すつもりがない、イコール、事業する気が無い。
と思われても、これは仕方がありません。
将来的に、こういった通常の金融機関と取引をしていきたい場合、少なすぎる資本金は避けたほうが良いでしょう。
このため、法人を作ったときに資本金をいくらにすれば良いのだろうか?
という疑問には、
最初は小さくても良いですが、将来的には大きくしていく必要があります。
と回答せざるを得ません。
では、資本金がいくらくらいあれば、銀行はちゃんと法人として見てくれるのでしょうか。
この点は銀行によって、また担当によっても答えは変わるのですが、
概ね1百万円以上、2~3百万円程度は資本金としてあったほうが良い、というのが個人的な印象です。
やはり、銀行からプロパーローンに近い融資を受けて規模を継続的に拡大している方は、そのくらいの資本金は最初から入れていますね。
もちろん、最初は小さな資本金額で初めて、機会を見て大きくする(増資する)という選択肢もあります。
ただ、増資は手続きが色々と面倒ですし、登記を変更しますので、登録免許税や司法書士報酬などのコストもかかります。
そう考えると、将来的に定形アパートローンでない融資を銀行から受けて事業拡大を希望される方は、最初からある程度の資本金は用意しておいたほうが良いのではないかと思います。
税金の観点
税金の観点とは何でしょうか?
実は、資本金の金額が大きくなると、税務上色々とデメリットがあるのです。
資本金は大きい方が銀行評価が高くなる傾向があるのは事実なので、資本金を大きくすることを目指す方は多くいらっしゃいます。
しかし、上記のデメリットがあるので、大体の方がある一定金額以上にはできないというわけですね。
以下でそのデメリットを見ていきましょう。
資本金1億円の壁
資本金を1億円以上にしようとする方は、不動産投資家ではいらっしゃらないでしょう。
ただ、デメリットが存在しますから、知っておいて損は無いでしょう。
資本金が1億円を超えると、税務上のデメリットがたくさんあるのです。
少し前になりますが、シャープが資本金を1億円にする減資を計画しているというニュースがありました。
吉本興業も、資本金を125億円から1億円に減資したことがニュースになりましたね。
なぜこのようなことをするのかというと、資本金1億円の壁を超えてしまうと、税務上の様々な優遇措置が受けられなくなるからなのですね。
具体的には、資本金1億円超だと、下記のような優遇措置をうけられなくなります。
・法人税の軽減税率の特例
・交際費の損金算入
・欠損金の繰越
・欠損金の繰戻還付
・少額資産の一括償却
・同族会社留保金課税非適用
・外形標準課税の非適用
このため、資本金が1億円を超えると、かなりの税金負担となります。
とはいっても、不動産投資をする会社で資本金1億円は無いでしょうから、現実的には、以下の1千万円の壁でしょう。
資本金1千万円の壁
不動産投資家にとって、より具体的な壁はこの資本金1千万円の壁ではないかと思います。
最初は小さな資本金で始めても、徐々に増資という形で資本金を増強する方もいらっしゃいます。
しかし、基本的には、900万円前後でストップすることがほとんどで、資本金1千万円超まで増資する方はいらっしゃいません。
資本金1千万円を超えると何が良くないのでしょうか?
具体的に言うと、消費税と法人住民税均等割の問題が発生するということになります。
設立第2期までの期間で、期初の資本金額が1千万円を以上になると、消費税の納税義務が発生します。
消費税還付を受けるためであればよいのですが、そうでない場合は、不動産賃貸業を行う法人が消費税の納税義務を追っても通常良いことは何一つありません。
このため、当初設立時点で資本金を1千万円以上にしないほうが良いという点があります。
また、資本金が1千万円を超えると、法人住民税均等割が増加するというデメリットもありますね。
どこの自治体もそうなのですが、法人住民税均等割りは資本金の額を基準に課税される構造になっています。
東京都の事例を見てみましょう。
法人都民税均等割(従業員50人以下の場合)
資本金1千万円以下:年間7万円
資本金1千万円超 :年間18万円
このように、資本金が1千万円を超えると、年間の法人税負担が11万円単純増加します。
利益水準が増加していないのに、税金だけ11万円も増えてしまうのはやはり痛いですね。
そういう理由もあって、法人の資本金は1千万円以下にする方が多いのですね。
もちろん、資本金を1千万円超にすることで、さらなる銀行融資の可能性が広がるなど、より高い収益を目指せる場合は11万円程度税金が増えても良いかもしれません。
このあたりは、銀行としっかり打ち合わせしたいですね。
先走って資本金1千万円超に増資しても、銀行の対応が変わらないのでは、税金の払い損ですからね
手元資金の観点
資本金として会社に入れた資金は、そうやすやすと個人の財布に戻すことはできません。
これは、資本金は会社のお金だからです。
例えば、資本金100万円の会社を設立し、法人口座に100万円を入金した上で、1週間後に急に資金が必要となったため、法人口座から100万円を引き出した。
ということをするとどうなるでしょうか。
この場合、会社から役員に対して資金を貸し付けた、ということになります。
というのも、この100万円は既に会社のお金なわけですから、これを役員の手に渡ったということは、会社が役員に対してお金を貸した、ということになってしまうわけです。
利息の認定課税リスク
会社はお金を貸しているわけですから、当然ながら「利息」を取る必要が出てきます。
法人で貸付に対する利息を取り、収益計上しなければならないわけですね。
そうなると、法人での税金が増えてしまいます。
この利息を認識していないと、税務調査の際に利息の認定課税というものが行われる可能性があります。注意が必要ですね。
通常、自分の会社の口座のお金は皆さん自分のお金だと思っているので、自由に引き出すことが多いです。
あまりに多くのお金を口座から引き出すと、このように法人から役員に対する貸付金が生じ、利息の認定課税リスクが生じることになります。
このため、役員に対する貸付金が生じる場合は、決算において受取利息を計上しておくことが普通ですね。
役員賞与認定課税リスク
また、この貸付の状態を放置していると、さらに厄介な状況が生じます。
例えば、この100万円の貸付を、役員が全く返済していなければどうなるでしょうか?
こうなると、「貸付ではなくて、役員にあげてしまったお金なのではないか?」という話になってきますね。
もちろん、役員にとってはもともと個人の通帳に入っていたお金のわけですから、それを法人口座に置いておこうが、個人口座に置いておこうがどっちでもよいだろう、と言いたくなるかもしれません。
しかし、法的にはそうはならないのです。
資本金は既に会社のお金です。
これを役員の口座に送金し、さらに返済も行っていないとなると、役員に対する資金提供となってしまいます。
いわゆる、役員賞与の認定課税ですね。
こうなるとどうなるのかというと、
・役員賞与は経費になりませんから、法人の税金は減りません。
・役員賞与は賞与ですから、所得税源泉徴収が必要です。もちろん、源泉徴収など行っていませんから、源泉税の納付漏れとなり、本税に加え不納付加算税も必要になります。
・役員賞与を個人で受け取っているわけですから、所得税の申告も必要ですね。もちろん、個人収入として申告などしていませんから、所得税本税の納税と、過少申告加算税、下手をすると重加算税の支払いも必要になります。
このようなわけで、資本金として会社に入れたお金はそうやすやすと個人の通帳に戻せません。
そう考えると、資本金が大きい方が銀行評価が高くなりそうだと言って、手元資金に見合わない金額を資本金にしてしまうと、個人サイドでの資金不足が生じかねません。
そうなると、法人口座からお金を個人サイド戻さざるを得ません。
ですから、資本金の金額は、個人サイドの資金的余裕、資金繰りの状況も合わせて無理のない部分で設定しておく必要があるわけです。
まとめ
おそらく、不動産投資をるにあたっては、資本金を1百万円くらいは用意しておいた方が良いのではないか
このあたりを総合的に考えますと、資本金として1百万円程度は用意しておいた方が無難かなという印象です。
10万円などになると、銀行からの見栄えがよく有りませんが、と言って1千万円を超えるといろいろと負担も増えます。
その中間点として、また個人の財布に負担をかけない範囲で、ということになると、概ね1百万円程度に設定されるかたが多いのではないかと思います。