不動産投資の「本当の利回り」を考える

不動産投資では、利回りが非常に重要な位置を占めます。

つまり、収益性ですよね。

投資と言おうが事業と言おうが、より儲けたいわけですから、より高い収益性を持つ物件を購入するというのは当然です。
どれだけ投資してそれに対してどれだけのリターンがあるのか。という点が根本的に重要ですから、利回りという考え方で各物件を比較することは合理的です。

しかし、世の中で言われる「利回り」は毎年のキャッシュフローベースの利回りであることがほとんどなのです。

もちろん、毎年のキャッシュフローが重要であることは言うまでもありませんが、キャッシュフローだけが重要なわけでも無いことが不動産の面白いポイントと言えるのではないかと思います。

つまり、キャッシュフローだけでは不動産の本当の「利回り」を知ることはできないのではないか?ということですね。

では、不動産投資の本当の利回りとは何なのか、確認してみましょう。

不動産投資の「利回り」を思い出してみる

利回りは様々な種類があるというのは、こちらの記事で記載したとおりです。

もう一度復習してみましょう。

表面利回り
NOI利回り
税引き前キャッシュフロー利回り
税引き後キャッシュフロー利回り

というように、どの部分を切り取るかで様々な指標があることは確かなのですが、実はこれらは全て、保有によるキャッシュフローを前提として成立しています。

1年間物件を保有していると、通帳残高が増加しているので、その1年間での通帳の残高増加を投資の成果として考えているとも言えます。

もちろん、投資であるからには、利回りが高い物件を探すということになるわけです。

しかし、毎年の賃料収入に基づく利回りは非常に簡便で、物件間の比較検討には使いやすい一方、ある前提を考慮していないので、限界もあるのです。

不動産投資における収入は、保有期間中の毎年の賃料収入だけではありません。そう、売却によるキャピタルゲインがありますね。

そういう意味で、物件売却という前提を除外し、賃料収入のみに着眼したいわゆる「利回り」は、不動産投資の一面しか見ていないといえる部分ではあります。

物件売却を視野にいれると、キャッシュフローを見ていただけではわからなかった「本当の利回り」が見えてくるのです。

より具体的に言うと、売却を含めて考えた時、キャッシュフローベースの利回りを悪化させる要素でしかなかった元金返済と税金が、実は購入から売却までを通算した「本当の利回り」に影響をあまり及ぼさない、という点が分かってくるでしょう。

元金返済と税金は、収益性を悪化させる?

利回りを悪化させる元金返済と税金のことを考えてみましょう。

まず、元金返済が大きくなると、税引き前キャッシュフロー利回りを悪化させます。

税引き前キャッシュフローの計算は以下の通りでした。

賃料収入-経費-元金・金利支払=税引き前キャッシュフロー

このため、元金の返済が大きくなると税引き前キャッシュフローが減少してしまいます。

そうなると、税引き前キャッシュフローで考える利回りは当然小さくなってしまいますよね。

次に、税金が大きくなってしまうと、税引き後キャッシュフロー利回りが悪化します。
税金が大きくなると、税引き後キャッシュフローが小さくなってしまうので、当然ですよね。

このため、キャッシュフロー利回りを重視する立場では、いかに元金返済を抑えるか、また、いかに税金の支払を少なくするか、という点が重要になってくるわけです。

この帰結が、

① 融資期間を長くすること
② 建物金額を大きくする、又は建物の大きな物件を買う

というところになるのも当然ですね

というのも、融資期間を長く取ると、毎月の元金返済が当然少なくなるので、税引き前キャッシュフローが大きくなります。そうなると、利回りも改善します。

また、建物が大きいと、減価償却費として経費にできる金額が大きくなるので、利益が減り、税金が減少することになります。
減価償却費は支出を伴わない経費ですから、これによって税金の支払を小さくできれば、ダイレクトに税引き後キャッシュフローを改善することができるというわけですね。

たしかに、融資の返済期間を長くし、かつ税金の支払いを抑制すれば、NOI利回りや税引き前後のキャッシュフロー利回り指標は改善することは確かですね。

では、そのキャッシュフロー利回りの改善は、本当に投資の成果なのか?という点を考えてみましょう。

元金返済と税金は、本当に利回りを悪化させるのか?

これは、毎年のキャッシュフローのみを基準に利回りを考えると、たしかにそのとおりなのです。
ただ、売却という行為を前提に置くと、実は利回りにはもう少し違う姿が見えてきます。

元金返済は「損」なのか?

100万円の不動産を表面利回り10%で購入し、期間5年のフルローンで融資を受け、5年後に100万円で売却した場合を考えてみましょう。
簡便化のため、経費や税金は一切考えないことにします。

毎年の収支でみると、10万円の賃料収入に対し、20万円の返済が必要ですから、毎年10万円のマイナスキャッシュフローですね。
投資としては大失敗と言われてしまうかもしれません。

しかし、5年間保有して売却が終わったあとの総合計を見て見ましょう。

プラス50万円になっていますね。

なぜ毎年のキャッシュフローは赤字であったのに、買った値段で売っただけで総キャッシュフローがプラスになるのでしょうか?

それは、キャッシュフローのマイナスが実は元金返済によって発生していたからなのですね。

元金返済により借入金残高が5年後にはゼロになっていますから、100万円で購入した不動産を100万円で売ると、手元に100万円が残るのです。

これがどういうことか、ご理解いただけるでしょうか?

そう、元金返済が投資の総成果に影響を与えていないということなのです。
元金返済によるキャッシュアウトは、資金が失われたわけではなく、売却時に戻ってくるのです。

そういう意味で、元金返済が損ではなく、資産形成になっていたのだということです。

手元に残った50万円という数字は、家賃のちょうど5年分です。100万円の投資に対し、5年間で50万円の資金増加となると、単年度あたりの収益は10万円となり、利回りは10%ですから、表面利回りと同じですね。

次に、融資期間を延ばすとキャッシュフローが改善するということは多くの方がご存じですから、5年ではなく20年で融資を組めた場合を考えてみましょう。
ただし、5年後の売却時に80万円でしか売れなかったとします。

毎年の融資返済額が減りましたから、毎年のキャッシュフローはプラスに転じました。融資期間を長くすることでキャッシュフローを厚くする。大成功ですね!

となるかというと、実はそういうものでもありません。

5年後の総合計を見てみましょう。

合計のキャッシュフローは50万円から30万円に減少してしまいました。
この場合、5年間で合計30万円のキャッシュインが生じたわけですから、単年換算のキャッシュフローは5万円となり、単年の実質利回りは6%ですね。

融資期間が長いにも関わらず、実質利回りは低くなってしまいました。

なぜこのようなことが起こったのかというと、売値が100万円から80万円に減少したからですね。賃料収入が5年間で50万円あるのに対し、売却で20万円の損をしたので、総合計が30万円に減少してしまった、というわけです。

このように、物件価格の値下がりが起こると、その部分の元金返済は単なる損だった、ということになります。

このように説明してみると、物件を買ってから売るまでの投資の総成果を考えるとき、物件からの賃料収入と、いくらで売れたのか、という論点しか無いという点にお気づきでしょうか。

融資期間は売却までを見越した総利回りには影響を与えないのです。

もちろん、本当は金利などもありますから、これほど単純な話ではありませんが、融資期間の長短、つまり元金返済の大小が投資の成果に影響を与えているのではなく、その物件でいくら賃料収入を得ることができ、いくらで売れたかという点が投資の全てなのです。

融資期間を伸ばしたからといって、それは収入が新たに生まれたというわけではありません。

つまり、元金返済は不動産の「本当の利回り」に影響を与えないということになります。

減価償却を大きくすることは「得」なのか?

まずは、減価償却費を全く取らなかったケースで考えてみましょう。

100万円で表面利回り10%の不動産を現金で購入し、減価償却を全くしなかったという想定です。これも5年後に買値と同額の100万円で売れた前提ですね。
税率は30%としています。

すると、どうなるでしょうか?

毎年10万円の収入に対し、税率が30%ですから、3万円の税金を払うことになり、毎年のキャッシュフローは7万円ということですね。

これを7年間続けると、結局7万円×5年=35万円儲かったということですね。

では、減価償却を導入して税金支払額をコントロールしてみると、どうなるでしょうか?

100円を10年間で償却するため、毎年10の減価償却費を入れてみました。

するとどうなったでしょうか?

毎年の税金はゼロになりました。
一見すると大成功ですね。毎年の税金支払いをゼロにすることによって、税引き後キャッシュフローの大幅な改善に成功しました。

では、5年間の総合計も税金が減った分増えるのかというと、実はそうではありません。

CFの5年間の合計は、減価償却費がなかった場合と全く同じ、35にしかならないのです。

なぜこのようなことが起こるのでしょうか?

それは、売却時の納税が15も発生してしまっているのが答えですね。

つまり、減価償却をすれば、その分売却時の売却益が増加し、結果として保有期間中に払わずに済んでいた税金を全て売却時に払わなければならない、という結果になるのです。

減価償却費で税金を調整し、キャッシュフローを多くしても、売却までを通してみると、税金の総額は変わらないというわけですね。

減価償却が課税の繰り延べであるといわれる理由もここにあります。要するに、減価償却というのは、税金を支払うタイミングを選択しているだけであって、支払う税金それ自体を消滅させているわけではないのです。

減価償却が課税の繰り延べとならない例外が、保有期間中と売却時で税率が異なる場合ですね。個人の長期譲渡がこれに該当しますが、今回は割愛します。

融資期間や減価償却は「本当の利回り」に大きな影響を及ぼさない

このように、元金返済や減価償却による税金コントロールは、売却までを見込んだ利回りに影響を与えないということがご理解いただけたのではないでしょうか?

これは、ある種直感に反する結論ではあります。

毎年のキャッシュフローが赤字であっても、最終的にはきちんと儲かっている。
それが不動産投資の非常に面白く、かつ難しい部分であるといえますね。

不動産投資家に対し、融資期間を長くとり、かつ減価償却もとれる物件で、というようなアドバイスがよくなされているのは、以下のような前提があるからだと思います。

  • 基本的に売却を想定していない
  • 売却の見積が難しいので一旦無視(売却キャピタルゲインがあればラッキー)
  • 物件価格の経年による値下がりが前提
  • 手持ち現金の少ない状態で投資を進めることが前提

かつてのようなデフレ下においては不動産の資産価値が減少していくことが前提で、購入した不動産の価値が維持されず、価値が下がることが大前提だから、であれば保有期間中の毎年のキャッシュフローを分厚くすることが合理的です。さらに、そもそも手持ち現金が少ないのですから、何年先になるかわからない売却で得られるキャッシュよりも、毎年得られる保有キャッシュフローを重視する。

というところでしょうか。

それぞれ、一定の前提の下では非常に合理的な選択ではあるのですが、あくまで一定の前提の下での合理性であって、前提が変われば選択肢も変わってくるということが重要ですね。

もちろん、不動産の売却価格というものがなかなか予測しづらく、かつ景気によっても変動するため、毎年のキャッシュフローを重視するというのは非常に重要な考え方です。

何を目的に投資をするのか考えよう

このように、よく指標として用いられる表面利回りや税引き後キャッシュフロー利回りだけでは、投資の本当の利回りが判断できないということはご理解いただけたのではないでしょうか?

別に長期間の融資や、減価償却が大きくとれる物件だけが不動産投資における成功を保証するというわけでは全くありません。

例えば、好立地の土地としての価値がある築古アパートを考えてみましょう。築古であるため融資期間が長くとれず、建物が小さく減価償却費もあまり大きくとれないので買った瞬間あらデッドクロスであり、また土地の価値に基づいて価格形成されるため、収益物件としての利回りも低い。

というような物件があったとして、通常の投資家としては購入の決断には至らないでしょう。
そもそも築古であるのに利回りが低く、融資期間も短く税金も大きいので毎年キャッシュフローが残らず、下手をするとキャッシュがマイナスになるかもしれません。
なんのためにこの物件を購入するのだろうか?という感想を抱いても不思議ではありませんね。

ただ、裏を返すと、将来的に土地として最低でも購入金額以上で売れるという判断ができるのであれば、融資期間が短くても売ったら帰ってくるわけですし、減価償却が小さくても売った時の売却益が小さくなるはずです。別に損はしていません。
既に十分に現金が手元にあるのであれば、こういった売却まで見据えた長期的な投資も可能になるというわけです。

一方で、投資を始めてすぐだから、すぐにキャッシュフローを欲しい、ということなのであれば、表面利回りの高い物件で、融資期間を長くせざるを得ないでしょうし、建物金額の大きな物件で税金コントロールをせざるを得ません。

このため、利回りが高い物件となると結果として立地や土地の価値といった面で妥協せざるを得ないでしょうし、融資期間を長くすることが必須なのであれば融資の選択肢も限られてしまいます。減価償却が取れるということは、裏を返すと土地の価値が高くないということでもあります。

これらは良い悪い・正しいか誤りかという問題ではなく、投資の着眼点の違いといえます。

ですので、結局のところ、重要な点は自分がどのような状況にあり、どのような投資の成果を求めているのか、という点をしっかりと見極めることです。

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