不動産投資の利回りとは何でしょうか?
不動産投資にはいくつか重要な指標があるのですが、その最も重要な指標の一つが利回りでしょう。
今回は、不動産投資の利回りについていくつかご紹介したいと思います。
どれを使うか、という話なのではなく、どれも見る、というのは正しい姿かなと個人的には思っていたりします。
表面利回り
まずは、表面利回りです。
表面利回りは、不動産投資で基本的に最も重要な指標でしょう。
計算方法は、以下の通りです。
年間賃料収入÷物件価格
物件価格というのは、投資する金額ですから、投資価格に対して賃料がどの程度あるか、という指標になりますね。
不動産の物件概要書などに通常、利回り○%と書かれていることが多いですが、それは99%この表面利回りです。
もちろん、表面利回り5%の物件と、表面利回り10%の物件があるわけです。
表面利回り10%なら、1,000万円の投資に対し、年間賃料が100万円ですね。
表面利回り5%なら、1,000万円の投資で年間賃料が500万円だということです。
では、どう考えても表面利回りが高い方が有利ですよね?
ただ、実はそう単純なものでもありません。
不動産投資家にとって、家賃とはそのまま手元に残るものでは無いからです。
不動産を維持していく上で、多くの経費が発生します。
また、通常不動産投資家は融資を受けて物件を購入しますから、金融機関に対して金利や元金の支払が必要になります。また、当然ですが、不動産投資で利益が出るなら税金が発生します。
このため、受け取った家賃は多くが経費・銀行返済・税金として外部に流出します。
こういった、経費や元利、税金の支払など、多くの要素を表面利回りは無視しているということですね。
そのような観点でいうと、表面利回りは非常に不完全なものです。
表面利回りだけ見ても、物件の何もわからない、というのが正直なところですね。
不動産投資家を揶揄する言葉に、「利回り星人」というものがあります。
これは、結局、表面利回りが非常に不完全な指標であることを理解せずに、表面利回りの高い物件をもって良い物件と考えることを揶揄するものです。
また、一点知っておいた方が良いのは、表面利回りを計算する際に使用する「年間賃料収入」は、満室前提の賃料であるということでしょう。
その物件の部屋がすべて埋まり、満室となった場合の利回りということになります。
実際のところ、その物件が1年間ずっと満室だったということは、かなりの幸運であって、普通は退去による空室が発生します。
この意味で、1年間ずっと満室であることを前提とした利回り計算も、実態と乖離したものと言わざるを得ません。
そういった意味で、表面利回りは最も使いやすく、最も流通する指標なのですが、非常に慎重に見る必要があるものなのです。
NOI利回り(実質利回り)
次に、NOI利回りを見て見ましょう。
NOI÷物件購入価格
で計算することが一般的ですね。
NOI?
なんだか難しく聞こえますが、単純です。
実質賃料収入-運営諸経費=NOI(Net Operation Income)
ということになります。
このNOI利回りのことを、実質利回りという人もいます。
つまり、賃料から物件の経費を差し引いて計算したものになります。
まずは、賃料収入ですね。
まず、これは表面利回りのように、満室時の賃料ではありません。
通常は、ある程度の空室を織り込んだものになります。
たとえば、満室賃料の95%や、空室が多めのエリアなのであれば90%などに補正した上で使用します。
次に、この空室を考慮したあとの賃料から、経費をマイナスします。
この経費が実は曲者なのです。
不動産投資を行う上では、意外と様々な経費が発生します。
管理会社へ支払う管理費、退去に伴う原状回復費用、入居者募集のための広告費、水道光熱費、貯水槽や消化器の法定点検、物件の清掃、エレベーターのメンテナンス、機械式駐車場のメンテナンス、植栽の剪定、雑草対策、固定資産税や償却資産税、駐車場が必須のエリアで敷地内に駐車場が無いと、外部駐車場の借り上げ費用も必要です。などなど。
この経費の発生の仕方が、実は物件によって違うのです。
例えば、ファミリー向け物件とシングル向け物件では、原状回復費の金額が違います。また、立地や部屋の競争力次第で広告費も変わりますし、そもそも貯水槽やエレベーター、機械式駐車場の有無でそのコストが出たり出なかったりします。地方の土地の大きな物件になると、植栽の剪定や雑草対策だけでも意外とお金が必要です。
そうなると、実は同じ表面利回り10%の物件であっても、NOI利回りに差異が生じてくるという点はご理解いただけるでしょう。
つまり、発生する経費が大きい物件と小さい物件があるので、単純に表面利回りだけだと実は物件の収益性を比べることはできないのです。
例えば、エレベーターのある物件と、ない物件であれば、表面利回りが同じであっても、NOI利回りは変わってきます。
なぜかというと、エレベーターがあると、エレベーターメンテナンスコストがかかるからです。
こういった設備の有無はまだわかりやすいですが、例えばそのエリアで必要とされる内装設備(独立洗面台やウォシュレットなど)が自分の物件に無い場合、賃貸募集の前にそれらを取り付けなければならないでしょうし、賃貸仲介業者に払う広告費も大きくなるでしょう。
そうなると、そのままで賃貸競争力のある物件にくらべ、自分の物件はコストがかかりますから、たとえ表面利回りが同じであっても、NOI利回りで考えると劣後することになるわけです。
また、鉄筋マンションと木造アパートではそもそも固定資産税の金額が全然違いますし、敷地外駐車場の有無でも固定資産税の金額は大きく変わります。
そうなると、単に表面利回りだけで物件を比較するのは、実はそれほど有益な考え方ではない、という点がご理解いただけるのではないでしょうか。
税引き前キャッシュフロー利回り
NOI利回りの次は、税引き前キャッシュフロー利回りですね。
計算方法は
税引き前キャッシュフロー÷物件購入価格
になります。
税引き前キャッシュフローと、先程のNOIの違いは、金融機関への元金と金利の支払ですね。
NOI-元利支払=税引き前キャッシュフロー
NOI利回りに、銀行の元利返済を加味すると、税前キャッシュフロー利回りということになります。
不動産を現金で購入するなら関係ありませんが、通常不動産投資家は、金融機関から融資を受けて物件を購入すると思います。
そうすると、金融機関への返済内容いかんによってキャッシュフローが変動してくるというわけです。
ご存じの方も多いでしょうが、銀行からの融資は、その融資条件(金利と返済期間)によって、劇的に金額が異なります。
たとえば、5千万円の融資を受けた場合の毎月の返済額を、比べてみましょう。
融資期間30年、金利3.5% :224,522円
融資期間15年、金利1.5% :310,371円
一見金利が低い方がお得なようにも見えますが、キャッシュフローという観点から見ると、金利よりも融資期間が長い方が有利なわけです。
このように考えると、NOI利回りが同程度であっても、融資条件によって税引き前のキャッシュフローが異なってくるということになります。
税引き前キャッシュフロー利回りは、結局融資条件の良し悪しによって変動するということになります。
つまり、表面利回りとNOI利回りが同程度であっても、融資条件によって、税引き前キャッシュフロー利回りが変動するということになりますね。
税引き後キャッシュフロー利回り
税引き後キャッシュフロー利回り以下のように計算します。
税引き後キャッシュフロー÷不動産購入価格
ということですね。
税引き後キャッシュフローは、その名の通り税引前キャッシュフローから税金を控除したものです。
税引き前キャッシュフロー-税金=税引き後キャッシュフロー
税引き後キャッシュフローの優劣を決定するのは、取りも直さず税金です。
税引き前キャッシュフローと税引き後キャッシュフローの違いは税金なのですから、当然ですよね。
では、不動産の税金とは何によって変動するのでしょうか。
それは、不動産では何と言っても減価償却費の影響が大きいです。
この減価償却費のバランス如何で、税引き前キャッシュフローに対する税額の大きさが変わってきます。
とりわけ、元金返済が経費にならないキャッシュアウトである一方、減価償却費がキャッシュアウトを伴わない経費であるという対応関係にありますので、減価償却費と元金返済のバランスはキャッシュフローの観点からは重要です。
具体的に言うと、元金返済よりも減価償却費が少なくなってしまうと、税引き前キャッシュフローに対して税金が過大になります。
この状態を、デッドクロスと呼ぶ人もいますね。
このため、いくら税引き前キャッシュフローまでを検討できていても、思わず税金が多額に発生するので以外とお金が手元に残らないというのは、実によくある話なのです。
では、税引き後キャッシュフローを大きくするためには、どうすればよいのかというと、建物の金額をできるだけ大きくするということが重要になります。
減価償却ができるのは建物部分だけですからね。
不動産投資家の方は、通常、土地と建物を同時に購入されるでしょう。
その時、土地と建物の金額がどのように按分されるのか、それ次第で、税引き後のキャッシュフローが変動するのです。
このため、税引き後キャッシュフロー利回りは建物金額の変動によって変化してしまう、というものになります。
利回りは使い分けが重要
ここまで見ていただくと、表面利回りがいかに「表面的な」指標か、ということがご理解いただけるのではないでしょうか。
率直に申し上げると、表面利回りだけ見ても何もわからないというのが正直なところではあります。
しかし、表面利回りが約立たずなものかというと、そういうわけではありません。
同じエリアや同じ構造など、発生する経費や税金がざっくりとイメージできるようになると、表面利回りで比較しても概ね当たらずとも遠からずの結果を見ることができます。
このため、表面利回りという指標を用いたスピート判断が出来るようになります。
これは、NOI利回りや税引き後キャッシュフロー利回りを無視しているのではなく、表面利回りと物件情報からNOI利回りや税引き後キャッシュフロー利回りをおおむね類推できるからなのです。
また、自分が引くことのできる融資条件が概ね見えている場合も、表面利回りでの評価はある程度妥当でしょう。
そういう意味で、実は表面利回りはある程度経験者向けの指標と言えるのかもしれません。
また、融資条件で税引き前キャッシュフロー利回りが変動したり、建物金額の大小で税引き後キャッシュフローが変動するとはいえ、そのあたりが「投資の総利回り」にどの程度影響するかは微妙なところです。
このように考えると、結局利回り指標というものは、どの指標が重要かという話ではなく、使い所が重要だと言えるでしょう。