不動産投資には様々なリスクがあります。
前回は、不動産投資が現物資産であるがゆえに避けられない現物資産リスクをご紹介しました。
今回は、保有中にキャッシュフローの増減を発生させてしまう、様々なリスクとその対処法について考えていきましょう。
金融のリスク
不動産投資は、通常銀行から融資を受けて行います。
こうなると、必ず金融のリスクを負うことになるのです。
金利上昇のリスク
不動産投資は融資を受けて投資を行うことが通常です。
そうなると、基本的には金利を銀行に払う必要があるわけですね。
この場合、金利が上昇すると、なかば自動的に銀行への支払が増大しますから、毎月の支払額が上昇してしまうことになります。
不動産投資は賃料収入で金利を支払う必要がありますが、賃料収入は基本的に固定であると考えると、金利が上がってしまうと当初期待した成果が達成できないばかりか、もしかしたら賃料で金利を払えなくなる可能性すら無いわけではありません。
このような金利上昇に備えるためには、固定金利で融資を受けるというのが手ではあります。
ただ、通常の固定金利は長くても10年間ですから、全借入期間の金利を固定化はできません。(全期間固定金利は日本政策金融公庫でのみ可能です)
また、固定金利の期間が長くなれば、仮に途中で売却した際の違約金も大きなものになりますから、売却まで視野に入れた不動産投資が大きく制限されてしまいます。
金利スワップや金利キャップといった金融商品によって金利を固定化するという手も無いわけではありませんが、基本的に手数料が高いので、個人投資家が取り組む程度の規模では現実的では無いように思います。
こういった、金利上昇による返済額上昇リスクに備えるには、頭金をしっかりと入れ、融資を受ける金額をある程度抑えるといった自衛手段をとらざるをえません。
また、金利が上昇する一方で賃料が上昇しないと、物件のイールドギャップが小さくなってしまい、投資家の期待収益を満たさない状況が生まれるかもしれません。そうなると、物件価格を下げないと売れない、ということになるでしょう。
金利の上昇は、物件価格の下落を招来する可能性があります。
一方で、金利の上昇局面というのは、景気が上向いている状況と考えられますから、賃料の引き上げ余地が生まれている可能性も高いです。
もちろん、普通賃貸借契約であれば、一方的に賃料を引き上げることは難しいですが、更新のタイミングや退去のタイミングで賃料引き上げを狙っていくことは可能でしょう。
また、収益用不動産の価格に影響を及ぼす程度の金利上昇が発生している場合、インフレが発生している可能性が高いのではないでしょうか?
インフレ環境下においては、現物資産の値段が上がる一方、債務額は変わりませんから、不動産投資のような債務を引き受けて行う現物資産投資が非常に有利になります。
このように、金利以外のあらゆる要素を固定してしまうと、金利の上昇は大変なリスクではありますが、金利が変動しても他の要素が一切変動しないという前提は、実はそれほど現実的ではありません。
また、近年は中央銀行による量的緩和が大規模に行われている現状がありますから、金利の動向は予測することが非常に困難です。
一括返済のリスク
通常、不動産投資をする場合は長期の融資を受けますから、その期間中は、支払できないような状況を除き、融資を一括返済することは求められません。
(融資を受ける際に不正をした場合はこの限りではありません)
このため、融資金を一括で返済しろということに陥ってしまうことは考えられないところではあります。
不動産投資家であれば通常無いリスクにはなりますが、まれにメガバンクなどが、コベナンツ条項付きの契約をすることがあります。
コベナンツ条項とは、一定の財務制限条件(赤字を連続で出さないことや、LTVを一定程度に維持する、自己資本比率を一定以上に維持するなど)をクリアできない場合に、融資を一括返済しなければならなくなる条項ですね。
こういった条項が万が一入った契約を銀行とした場合は、この財務制限条項を死守する必要がありますし、万が一にでもコベナンツ条項が発動される場合は、物件を売却して一括返済をする必要がありますね。
こういったリスクは通常事業として不動産を扱う人が追うべきリスクですから、不動産投資家が、いくら好条件を提示されたといっても、コベナンツ条項付きの契約を結ぶべきではないと個人的には考えています。
一部メガバンクで、不動産投資家向けの融資にコベナンツ条項を要求するというようなケースを聞いたことがあります。
魅力的な融資条件であっても、このようなリスクを負うことになるのだと理解しておきましょう。
経営のリスク
不動産投資とは、取りも直さず不動産賃貸業の経営です。
このため、当初想定したとおりに経営できないリスクというものも確実に存在します。
経営上のリスクとは、想定よりも収入が少なくなるケースと、想定よりも支出が多くなるケースがあります。
特に、融資を受けて行う不動産投資は毎月固定金額を銀行に支払う必要がありますから、収入の減少や支出の増加はそれだけダイレクトに経営を圧迫することになります。
空室リスク
不動産投資をする上で、空室は必ず発生します。
賃貸物件である以上、空室に一度もならないという状況は想定できません。
何がリスクになるのかというと、空室が想定していた期間で埋まらない、なかなか次の入居者が入ってくれない、という状況が発生するリスクですね。
もちろん、空室期間の賃料が受け取れないという状況が発生しますし、家賃の引き下げや設備の充実化、賃貸仲介へ追加で広告費を払うなどのため賃料を受け取れないのにコストはかかるという最悪の事態にもなりがちです。
もちろん、不動産の賃料を受け取るのが不動産投資なわけですから、賃料を受け取れない空室の長期化は、なんのための投資かわからなくなる最悪の状況です。
このリスクを回避する方法は、とにもかくにも事前のリサーチです。
周囲の競合物件の設備と賃料、周囲の賃貸物件数などを調べるのです。
最寄り駅の駅前にある賃貸仲介店舗にヒアリングしてみたり、せめてhomesやsuumoで周囲の賃貸募集情報を徹底的に調査しましょう。
私は、これに加えて周囲の競合物件を地図上で確認し、それらを実際に現地で確認して空室率をチェックするということもしています。
ポストに養生テープが貼ってあれば空室としてカウントする単純明快なものですし、設備や賃料の比較はこんなんですが、空室で困っている物件がなさそうであれば良いエリアでしょうし、空室の多い物件を見つけたら別途賃貸募集ページなどを見てその原因を考え、自分の物件がそれに該当しないかを確認します。
この周囲の情報と明らかに乖離する状況であれば、購入以降に苦労することは間違いないでしょう。
ただ、逆に言えば、事前の調査を怠らずきちんと確認していれば、空室で困るという事態はほとんど回避可能です。
回避できないのは、先に述べた周囲にアパートが増えてしまうケースですが、そうでないならある程度回避可能です。
賃料下落リスク
多くの方がご存じでしょうが、日本の賃貸市場には新築プレミアムというものが確かに存在します。
それは、新築からその後一回転するくらいまでは、築が新しいという理由だけで、高い賃料でも入居者が決まるというものです。
賃貸仲介業者に広告費を厚めに積んだりして多少無理をすれば、びっくりするくらい高い賃料で決まることもさして珍しくありません。
新築投資を行う人に取っては有り難いボーナスではありますが、気をつけなければならないのは、新築プレミアムが剥落すると、賃料は相場並みに落ちてしまう、ということなのです。
この、新築プレミアムが上乗せされた賃料でその物件の収益性を見ては決してならないのです。
まれに、新築建売物件や、土地を売ってその上に新築を建築する物件に、この新築プレミアムが大変に上乗せされたレントロールで販売されているものがあります。
このため、立地の割に表面利回りが意外と高く感じたりするわけですが、裏にはこのような永続しない賃料水準が隠れていたりするので、気づかずに購入してしまうと、いきなり賃料の大幅下落に見舞われてしまったりします。
では、中古物件であれば賃料下落リスクは低いのでしょうか?
そうとも言い切れません。
では、賃料下落リスクは新築プレミアムの無い中古物件であれば存在しないのかというと、そういうわけではありません。
まず、長期入居の部屋の退去リスクです。
10年以上の長期入居している部屋は、退去されると賃料が下がることが多いのです。
これは、当然といえば当然で、今よりも物件が10年以上新しかったときの賃料をそのまま維持するというのは、さすがに無理のある話ではあります。
このため、たとえ中古物件であっても、レントロールの賃料水準はきちんとチェックし、相場賃料より高い家賃で入っている部屋があれば、これは相場賃料に引き直して利回りの計算をしておく必要があるでしょう。
一方、過去の入居付が弱気に行われていて、退去したら賃料を上げられることも珍しくありません。その場合は、ラッキーということになりますね。
また、特に業者売主物件に多いですが、賃貸仲介業者に多額の広告費を支払い、空室を無理やり高い家賃で埋めて、売り抜ける。
という手法も存在します。
そういう物件を購入してしまうと、その部屋は相場より大幅に高く決まっているので、退去も早いですし、退去後に同じ水準の賃料を設定することは指南の技でしょう。
そういった意味でも、中古物件であってもレントロールと相場賃料の乖離はしっかりとチェックしなければなりません。
ただ、新築プレミアムの問題も、この中古物件の割高賃料の問題も、しっかりと相場賃料のリサーチができれば比較的簡単に回避できます。
事前に周辺の競合物件で、建物構造・築年数・設備が類似している物件の賃料を入念にリサーチしましょう。
滞納リスク
滞納は、空室とは違い、入居者はいるのに、その入居者が家賃を払ってこない、ということです。
賃貸物件は、常にこの滞納リスクと隣合わせではあります。
滞納が発生すると、率直に言うと空室が埋まらないより厄介な状況が生まれます。
日本には借地借家法という厄介な法律があり、これの影響で、滞納したくらいでは簡単に入居者を退去させられないのです。
結果として、滞納したままある程度の期間居座られることになりますし、また退去させるにしても、弁護士への依頼などを通じて裁判を行う必要がありますから、ゆうに50万円程度のお金は飛んでいきます。
空室はがんばって埋めればなんとかなりますが、滞納はがんばってもなんともならない、というところなので、最も恐ろしい部分ではあります。
ただ、滞納が恐ろしいリスクである一方、それをカバーする手段もあります。
それが、保証会社の活用です。
保証会社に加入していると、滞納が会った場合保証会社が賃料を立て替えてくれますし、賃料を回収できない場合の追い出しもやってくれます。
滞納に備えた保険と言えるでしょう。
また、この保証会社の費用は、通常であれば入居者持ちです。
このため、不動産投資家は絶対に保証会社を使うべきと言えます。
もし入居者が保証会社費用の支払いを渋るようであれば、オーナーが負担しても良いと思います。
また、中古物件の場合は、既に入居している入居者が保証会社に加入していない、というケースがよくあります。
そうなると、滞納されると手が打てないということになりかねませんから、そういった場合は管理会社と相談して、事後的に保証会社に加入するというのも選択肢ですね。
その場合、さすがに今の入居者に保証会社費用を負担させることは難しいでしょうから、オーナー負担ということになるでしょう。
ただ、滞納は深刻化してしまうと解消に非常な労力とお金が必要になってしまうので、オーナー負担での保証会社加入も十分選択肢として考慮すべきでしょう。
孤独死・自殺リスク
自分の持っている物件で、孤独死や自殺などが起こると、事故物件ということになります。
そうなると、その後の賃貸募集や、賃料への影響が懸念されます。
最近、高齢化と未婚率の上昇によって、孤独死の発生リスクは確実に上昇しています。
もはや、不動産投資と孤独死は恐らく切り離せない関係といってもいいかもしれません。
率直に言うと、これはなかなか防ぐことは難しいです。
高齢者の方の入居に慎重になるというくらいでしょうが、といっても、今は孤独死は別に高齢者に限った現象ではありません。
また、自殺はもうどうしようも無いという部分ではあります。
ですので、孤独死や自殺といったことは起こりうるのだ、という理解で不動産投資を行うということになるでしょう。
ただ、築古の物件などで、すでにある程度割安の賃料帯で決まっている場合は、事故物件になることによる賃料下落は実際はそれほど大きくありません。
また、賃料が割安なのであれば、たとえ事故物件であったとしても、入居者が見つからないということもありません。
個人的には、それほど強く恐れるようなことでは無いかな。という印象を持っています。
このあたりをカバーしてくれる火災保険特約もありますので、必要に応じて検討しても良いでしょう。
犯罪リスク
犯罪リスクとは、物件で殺人や傷害など何らかの犯罪が行われるリスクです。
刃傷沙汰が代表的ですが、例えば物件内部で麻薬栽培が行われたり、入居者が犯罪者となって警察が踏み込んでくるというケースもあります。
ただ、やはり殺人などによって人が死んでしまうと、かなり重度の事故物件になってしまいますから、注意が必要、とはいえ、注意して防げるものでもありません。
こればかりは、起こらないことを祈るのみ、という部分ではあります。
また、孤独死・自殺リスクでも触れましたが、こういった事故は入居者の属性が低いと起こりやすいという部分がありますので、入居審査の時点で怪しい人を断るという自衛手段があります。
また、実は、どれほどの事故物件であっても、賃料水準次第では、入居希望者はいるものです。
相模原で連続殺人があったことを覚えている方もいるかも知れませんが、現場となったアパートから退去者もいなかったし、現場の部屋も既に入居がついているようです。
これは、そのアパートの賃料水準がエリア最安で、殺人が起こったくらいでは退去が起こらなかったというわけですね。
高水準賃料帯の物件は、事故は起こりにくいですが、起きた場合の影響も激甚である一方、低水準賃料帯の物件は事故が起きてもさほど影響が無いというのも事実です。
このあたりも踏まえて、物件を選んでみても良いかもしれません。
大規模修繕リスク
大規模修繕のリスクというものともあります。
不動産は土地と建物を同時に購入するわけですが、建物は建築されていこう、基本的には経年劣化により傷んで行きます。
このため、基本的には定期的な修繕を行わなければなりません。
その中でも、インパクトが大きいのは、外壁の塗装・タイルをチェックしたり、屋上の屋根・防水処理を再度おこなったりする、いわゆる大規模修繕ですね。
これは、どの物件でも避けられないことです。
ですので、リスクと言う言葉はあまり合わないかもしれません。
どんな物件でもいつかは必ず大規模修繕が必要になるからです。
つまり、事前にいつ頃大規模修繕が必要になるのか、どの程度の金銭的負担が生じるのかを把握して収支を把握していれば、なんの問題もありません。
なぜこれがリスクになるのかと言うと、自分の不動産に大規模修繕がいついくらくらいかかるのか全く理解しないまま、不動産を購入する方がある程度いらっしゃるからですね。
不動産の大規模修繕はいつか必ず発生するものですから、その前提で収支計算を組み立てる必要があります。
経費率上昇リスク
経費率の上昇リスクとは何でしょうか?
取りも直さず、購入する前に把握していなかった経費が発生してしまうリスクと言えるでしょう。
率直に申し上げると、このリスクは基本的には回避可能です。
不動産投資を行う上で発生する経費はある程度限られています。
その物件の土地の広さや設備・内装の状況によってほとんど事前に予測出来るでしょう。
では、なぜこれがリスクになるのかというと、不動産投資を初めて行う方にとって、どのような経費が発生するかわからず、また不動産会社も別に教えてくれるわけでもないので、買ってみて初めて「こんな経費がかかるんだ」というものが次から次に出て来る。結果、当初想定していた投資成果を全く達成できない。
という状況に陥る可能性があるということなのでしょう。
このあたりは、今は市販の書籍などでも十分に学ぶことができますし、経験者の友人知人に聞いてみるなどの手段で十分に回避が可能です。
融資がついた不動産をおすすめされ、今決断しなければ他の人に売ります、と言われてしまい、ついつい勉強不足を自認しながらも買ってしまう、そういう受け身の物件購入を行なった場合にこうなりがちです。しっかり勉強して準備をするか、アドバイスしてもらえる信頼のおける相談相手を見つけておきましょう。
税金のリスク
税務のリスクとは何でしょうか?
それは、取りも直さず、事前に考えていたよりも税金が多い、という事態ですね。
これは、主に所得税や法人税といった、「利益」に課税される税金でよく起こります。
固定資産税や不動産取得税などは、事前にある程度計算できてしまい、そこまで大きく外れるということは無いのですが、「利益」にかかる税金には、大きくハズレることがよくあるのです。
デッドクロスという言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、デッドクロスも言ってしまえば、事前の想定よりも大幅に税金を払わなければならない状況といえます。
というのも、事前にデッドクロスになることを把握した上で物件を購入しているのであれば、特段デッドクロスであろうが問題は無いからです。
この点に関して言えば、きちんとシミュレーションができていれば、購入後に予想外の税金で苦しむ事態というのは、基本的に避けられるでしょう。
購入する段階でこの物件の収支がどの様になるのかを把握することは必要ですが、これを税引前キャッシュフローで行っている方は意外と多いものです。
その場合、税金の支払いで実はそれほどキャッシュフローが残らないという事態が生じる可能性もありますから、事前の検討は必ず税引き後キャッシュフローで行うようにしましょう。