青色事業専従者給与をご存じでしょうか?
個人事業主は、基本的に同居する親族に仕事を手伝ってもらったとしても、給与を払うことができません。
これが原則ですね。
ただ、例外として、青色事業専従者給与というものが用意されています。
これは、同居の親族であっても、一定の条件を満たせば、給与の支給が可能になるというものです。
このため、不動産を個人で保有する方が、同居の配偶者などに青色事業専従者給与を支給することがあります。
ただ、個人的にはこの制度、不動産投資家にとっては正直使いにくいと感じている部分です。
今回は、不動産投資家が青色事業専従者給与を使用する場合の注意点について確認していきましょう。
青色事業専従者給与とは?
まず、青色事業専従者給与とはどのようなものでしょうか?
前述の通り、個人事業主が、同居の親族(厳密にいうと、生計を一にする親族)に対して給与を支給しても、原則として経費になりません。
その中で、唯一の例外が青色事業専従者給与なのです。
以下の4つの条件を満たす場合の給与は、青色事業専従者給与に該当し、経費にすることができるというわけです。
- 青色事業専従者に支払われた給与であること
- 青色事業専従者給与に関する届出書を納税地の所轄税務署長に提出していること
- 届出書に記載されている方法により支払われ、しかもその記載されている金額の範囲内で支払われたものであること
- 青色事業専従者給与の額は、労務の対価として相当と認められる金額であること
一定の条件付きとはいえ、自分の親族に給与を払って経費にできる点は魅力ですね。
青色事業専従者給与のメリットとは?
青色事業専従者給与の一般的なメリット・デメリットや注意点は、以下の記事で解説していますので、こちらをご参照ください。
基本的には、親族に給与を支給し、それが経費になったり、社会保険の別途加入が不要であったりと、メリットの大きい制度ではあります。
不動産投資家が青色事業専従者給与を使うときの注意点
青色事業専従者給与がメリットの大きい制度であるということであれば、皆ジャンジャンやればいいじゃないか!
となるわけですが、実はそうも行かないのですね。
とりわけ、不動産投資家が青色事業専従者給与を支給することは、なかなかハードルが高いです。
青色事業専従者給与が税務調査で否認される事例はたくさんあるのです。
どのような点が論点になるのかというと、もう一度青色事業専従者給与の条件を思い出してみましょう。
- 青色事業専従者に支払われた給与であること
- 青色事業専従者給与に関する届出書を納税地の所轄税務署長に提出していること
- 届出書に記載されている方法により支払われ、しかもその記載されている金額の範囲内で支払われたものであること
- 青色事業専従者給与の額は、労務の対価として相当と認められる金額であること
以上の4点ですよね。
2.と3.は、いわば形式要件ですので、形式さえ満たせば論点にはなりません。
(実際はこの形式要件すら満たせない否認事例もかなり多いのですが。。。)
論点となるのは、形式ではなく実態を見る1.と4.ですね。
まず4.を見てみましょう。
4.青色事業専従者給与の額は、労務の対価として相当と認められる金額であること
つまり、親族に支払った給与の額が、労務の対価として適正かどうか?という話なわけです。
言い換えると、行っている仕事の内容に対して払われている給与が、世間の相場から見て明らかに高すぎる場合は否認できるということです。
例えば、週に1回物件を回ってゴミ拾いをし、月に1回帳簿をつける、程度の仕事に対して、年500万円の給与を払うことはアリでしょうか?
他人がその仕事をしていたとして、その人に500万円払うでしょうか?
多分、払わないですよね。
であれば、その給与は過大である可能性が高いです。
とはいえ、給与の過大性というのは、なかなか判断が難しい点もあり、税務署もそこまで突っ込んでくることは少ないです。
他に従業員がいて、同じ仕事をしているのに、年収が倍違うなど、過大性を明らかに証明できる場合もありますが、親族従業員が一人とかだと、結構難しいのですよね。
そのような場合は、同一業種の青色申告者が支給している青色事業専従者給与を参照して、これを超える部分が否認されると言った事例もあります。
青色事業専従者給与では、この4.が言及されることが多いのですが、不動産投資で青色事業専従者給与を支給することを考えると、実は、1.がかなりの曲者だったりします。
1.青色事業専従者に支払われた給与であること
まさに、この「青色事業専従者」に該当するかが、極めて重要なポイントになります。
なぜかというと、給与を受け取っている親族が、「青色事業専従者」に該当しない場合、そもそも青色事業専従者給与の条件を満たしていないので、給与が全額否認されかねないからです。
では、「青色事業専従者」の定義を確認しましょう
青色事業専従者の定義は、以下のとおりです。
- 青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること。
- その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること。
- その年を通じて6月を超える期間(一定の場合には事業に従事することができる期間の2分の1を超える期間)、その青色申告者の営む事業に専ら従事していること。
赤字になっている部分、「事業に専ら従事していること」という部分が実はかなり難しいのですね。
つまり、給与を受ける親族が、専ら従事しているのでなければ、そもそも青色事業専従者給与として成立していないということになるのです。
では、「事業に専ら従事している」とはどういう状態をいうのでしょうか?
不動産にて青色事業専従者給与が否認された事例がいくつかあるので、見てみましょう。
青色事業専従者給与が全額否認された事例
青色事業専従者給与が否認された事例を通して、「事業に専ら専従している」というのがどのような状態なのか見てみましょう。
不動産賃貸業を個人で営む人が、自分の妻を青色事業専従者として給与を年4百万円支給していたのですが、その全額が否認されてしましました。
54台分の駐車場を賃貸していたのですが、その駐車場賃料について、奥さんは以下のような仕事を実際にしていました。
- 不動産収入管理台帳への賃貸料及び敷金の受領月日・受領金額の記載と賃貸料の受領金額の集計・記載
- 賃貸料及び敷金の受領金額の確認と受領証の発行
- 支払期日までに賃貸料が未納となっている者に対する電話又は実地による督促及び集金
- 賃借人との駐車場使用契約書の作成
- 無断駐車の車両が無いかどうかの見回り及び当該車両があった場合の交番への届出
- 雑草への対応、草取り
ざっと見ると、結構仕事をしているな、という印象ではないでしょうか?
率直に言うと、不動産投資家で青色事業専従者給与を支給している方で、上記内容よりも仕事をしているという専従者は少ないのではないかと思います。
しかし、これだけの仕事をしていても全額否認なのです。
ここでえげつないのは、支給した給与が多すぎるので、少なくしてくださいではないのです。
4百万円は業務量に対して多すぎなので、3百万円なら認めます、という話ではなく、4百万円が丸々すべて否認されたのですね。
なぜ、「実際に仕事をしている」にも関わらず全額否認されてしまうのでしょうか?
そこに、「事業に専ら従事している」という条件が大きく関係してくるのです。
青色事業専従者給与否認のロジック
それでは、どのように否認されたのか、実際の裁決文を見てみましょう。
平成7年5月30日国税不服審判所裁決
A 不動産収入管理台帳への賃貸料及び敷金の受領月日・受領金額の記載と賃貸料の受領金額の集計・記載に係る業務については、(省略)、妻が当該各年において当該業務を行っていたとしても、これに要する事務量は、僅少であると認められる。
B 賃貸料及び敷金の受領金額の確認と領収証の発行に係る業務については、(省略)、妻がこれらの業務に従事した事務量は、僅少であると認められる。
C 支払期間までに賃貸料が未納となっている者に対する督促及び集金に係る業務については、(省略)、これらの業務に要する事務量は、僅少であると認められる。
D 現金で受領した賃貸料及び敷金の預金口座への預入れに係る業務については、(省略)、この業務に要する事務量は、僅少であると認められる。
E 賃借人との使用契約書の作成に係る業務については、(省略)、たとえ妻が当該使用契約書の作成を行っていたとしても、この作成に要する事務量は、僅少であると認められる。
F 無断駐車の車両がないかどうかの見回り及び当該車両があつた場合の交番への届出に係る業務については、(省略)、本件駐車場の各所在地が比較的近いところにあることからみて、1回当たりの見回りは短時間に終了するものと認められ、当該見回り等に要する各年分の事務量を実日数に換算すると、僅かであると認められる。
G 本件駐車場の草取りに係る業務については、(省略)、妻が本件駐車場の草取りを行っていたとしても、それに要する各年分の実日数は、ごく僅かであると認められる。
(省略)
検討したことを総合して判断すると、妻の1日当たりの実際の従事時間は、通常の青色事業専従者のそれよりも極めて短時間であると認められ、専ら従事していたといえないことは明らかというべきである。
以上のとおり、妻は、各年分において、請求人の営む事業に専ら従事していたと認めることはできないから、所得税法第57条第1項に規定する青色事業専従者としての要件を満たしていないことになるので、請求人がDに支給した青色事業専従者給与の額を、請求人の各年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することはできないとした原処分は適法である。
ここまで読んでわかるのは、つまり仕事量がそれほど大きくないのであれば、いくら本当に仕事をしていたとしても、「事業に専ら専従している」とは言えないので、青色事業専従者給与の要件に該当しないということです。
おそらく、これらの仕事を外部の第三者に、アルバイトとして行ってもらい、それに対して給与を支給した場合は、問題なく経費になるでしょう。
しかし、自分の親族に給与を支給する場合は、その親族が専ら事業に従事する必要があり、その専ら事業に従事するとは、多少の仕事をした程度では認められないのです。
本当にある程度は仕事をしていたとしても、だめなのです。
この点は、上記とは別の裁決ですが、以下のように示されています。
同じく不動産投資家が、奥さんに青色事業専従者給与を支給しており、それが全額否認された事例ですね。
平成28年1月21日国税不服審判所裁決
本件配偶者が本件不動産賃貸業に実際に従事した労務の内容は、いずれも簡易な事務又は判断に過ぎず、1回あたりに要した時間も短時間で、これらを合わせたとしても、月に数回しかも数時間のみ従事していたものと認められる。そうすると、本件配偶者は本件不動産賃貸業に臨時的、一時的に従事していたにすぎず、本件配偶者が従事したすべての業務を併せ考慮したとしても、本件配偶者は本件不動産賃貸業に専ら従事したとはいえない。
不動産投資で青色事業専従者給与を出すロジックは正直難しい
こうなってくると、実は不動産投資で青色事業専従者給与を使い節税するのは、実は結構難しいという点はご理解いただけるでしょう。
不動産投資は、その「投資」という名前の通り、多くの仕事を管理会社などの外部業者に外注することによって、投資家にはほとんど作業は発生しないことが通常です。
ガッツリと自主管理し、その采配を専従者である親族が一手に担っているようなケースは稀でしょう。
そうなると、たとえ親族に資料の整理や管理会社とのやり取りを手伝ってもらったとしても、その仕事内容は、「専ら従事した」といえないケースがほとんどでしょう。
そうなると、税務調査が入り、税務署とガチンコ勝負になると全く勝ち目はありません。
もし、不動産投資家の方が、青色事業専従者給与を使う場合は、この点に注意して進めていただければと思います。